日本の労働時間は「世界でも長い」のか OECD最新データで見えた意外な現在地
日本は、少なくとも「働く人1人当たりの年間平均」で見ると、主要国の中で突出した長時間労働国ではありません。OECDの2024年値は年間1,617時間で、OECD平均の1,741時間を124時間下回ります。
ただし、これは「日本の長時間労働問題が解消した」という意味ではありません。平均値は短時間勤務者や自営業者も含むため、一部の人に集中する長時間労働を隠してしまうからです。
この記事で分かること
- 2024年の日本はOECD平均より年間124時間短い
- G7では米国、イタリア、カナダが日本を上回る
- 日本の年間労働時間は2010年から116時間減った
- 国別順位だけでは長時間労働の集中や働き方の差を判断できない
使用データと比較条件
比較に使うのは、OECDの「就業者1人当たり年間実労働時間」です。 2026年8月22日にOECD Data Explorerで確認できた2024年値を中心に、2010年と2019年も参照します。
比較条件は次のとおりです。
- 対象地域:日本、韓国、G7各国、OECD平均
- 対象年:2024年
- 推移の基準年:2010年、2019年
- 単位:就業者1人当たり年間時間
- 対象者:雇用者と自営業者を含む就業者
- 時間の範囲:通常勤務、残業、副業などで実際に働いた時間
年間実労働時間には、有給・無給を問わない残業や副業の時間が含まれます。一方、祝日、年次有給休暇、病気休暇、育児休業など、働かなかった時間は含まれません。
ここで重要なのは、フルタイム正社員だけの労働時間ではないことです。パートタイム勤務や年間の一部だけ働いた人も平均に入ります。
2024年の日本はOECD平均を下回る
日本の1,617時間は、OECD平均より約7%少ない水準です。 「日本人は他国より一律に長く働いている」という理解とは異なる結果になりました。
| 国・地域 | 2024年の年間実労働時間 | 日本との差 |
|---|---|---|
| 韓国 | 1,865時間 | +248時間 |
| 米国 | 1,796時間 | +179時間 |
| OECD平均 | 1,741時間 | +124時間 |
| イタリア | 1,715時間 | +98時間 |
| カナダ | 1,697時間 | +80時間 |
| 日本 | 1,617時間 | — |
| 英国 | 1,538時間 | -79時間 |
| フランス | 1,509時間 | -108時間 |
| ドイツ | 1,334時間 | -283時間 |
日本と米国の差は年間179時間です。単純に月平均へ直すと約15時間、週平均では約3.4時間に相当します。
一方、日本はドイツより年間283時間長くなっています。週平均に換算すると約5.4時間の差です。ただし、この換算値は年間差を52週で割った目安であり、標準的な週の勤務時間を示すものではありません。
G7の中では中間に位置する
G7だけを見ると、日本より年間労働時間が長いのは米国、イタリア、カナダ。短いのは英国、フランス、ドイツです。
つまり、日本はG7で最長でも最短でもありません。「欧米」と一括りにすると、米国と欧州主要国の大きな差を見落とします。
韓国との差は残る
韓国は1,865時間で、日本より248時間長い結果でした。ただし、韓国も2010年の2,163時間から2024年には1,865時間へ減少しています。
減少幅は298時間、率にすると約13.8%です。水準はなお日本より高いものの、長期的な短縮は日本以上に大きくなっています。
日本は2010年から116時間短くなった
日本の年間実労働時間は、長期的には減少しています。 2010年の1,733時間から2024年の1,617時間へ、14年間で116時間、約6.7%減りました。
| 年 | 日本 | OECD平均 | 日本と平均の差 |
|---|---|---|---|
| 2010年 | 1,733時間 | 1,796時間 | -63時間 |
| 2019年 | 1,644時間 | 1,766時間 | -122時間 |
| 2024年 | 1,617時間 | 1,741時間 | -124時間 |
2010年から2019年までに89時間減り、コロナ禍前の2019年から2024年までにはさらに27時間減りました。2020年には日本、OECD平均とも労働時間が大きく落ち込んでいるため、長期傾向を見る際は2019年との比較も欠かせません。
OECD平均も2010年の1,796時間から2024年の1,741時間へ55時間減っています。日本の減少幅はそれより61時間大きく、平均との差は63時間から124時間へ広がりました。
平均が短くても長時間労働は残り得る
年間平均の低下と、一部の人が極端に長く働く問題は両立します。 平均だけで「働きやすくなった」と結論づけることはできません。
ここがポイント: 年間1,617時間は、日本のすべての働く人が同じ時間だけ働いたという意味ではありません。短時間勤務者が増えれば平均は下がりますが、別の層に長時間労働が残る可能性があります。
雇用構成が平均を動かす
年間実労働時間は、1人の典型的な会社員の勤務記録ではありません。フルタイム、パートタイム、年間の一部だけ働いた人、自営業者を合わせた平均です。
そのため、国ごとの差には次の要素が重なります。
- パートタイム就業者の割合
- 女性や高齢者の労働参加と勤務時間
- 自営業者の割合
- 有給休暇や祝日の取得状況
- 副業を含む複数就業の広がり
- 景気変動や一時休業
例えば短時間勤務者の比率が高い国では、フルタイム勤務者の週労働時間が変わらなくても、就業者全体の年間平均は低くなります。逆に、自営業者や長時間勤務者の割合が高ければ平均は押し上げられます。
「平均」と「長時間層」は別の指標で見る
長時間労働の集中を調べるには、年間平均に加えて「週50時間以上」や「週60時間以上働く人の割合」を見る必要があります。
OECDの長時間労働データは性別や年齢層別に確認できますが、国によって「通常の週労働時間」と「実際の週労働時間」が混在します。日本と韓国は実労働時間を使う一方、通常労働時間を使う国もあるため、年齢差や男女差を国際比較するときは年間平均以上に慎重な扱いが必要です。
OECDは2022年について、加盟国全体で週50時間以上働く雇用者が約7%だったとしています。この数字も、平均値だけでは見えない長時間層が存在することを示します。
国別ランキングをそのまま評価表にできない理由
OECD自身が、単年の水準を国同士で単純比較する用途には適さないと注意しています。 各国で資料の出所や推計方法が異なるためです。
同じ「1時間」でも集計方法が違う
OECDの指標は共通の概念に近づけていますが、各国が完全に同じ調査票と方法で測っているわけではありません。労働力調査、事業所調査、国民経済計算など、基礎資料の組み合わせが異なります。
ILOも、労働時間統計の国際比較には注意が必要だと説明しています。調査対象が「人」か「仕事」か、主な仕事だけか複数の仕事を含むかによって、結果が変わるためです。
このため、表の1時間単位までを精密な国力順位として読むべきではありません。差が大きい国の位置関係や、同じ国の長期的な変化を把握する使い方が適しています。
労働時間だけでは生活の余裕を測れない
年間労働時間が短ければ、必ず所得や生活満足度が高いとは限りません。生活者の負担を見るには、少なくとも次の指標を組み合わせる必要があります。
- 1時間当たりの賃金と労働生産性
- 実質賃金と物価
- 通勤時間
- 家事・育児・介護などの無償労働
- 有給休暇の取得状況
- 希望より短く働く「不本意な短時間就業」
年間平均が減っても、物価上昇に所得が追いつかなければ家計の余裕は増えません。反対に、時間当たりの生産性や賃金が上がれば、労働時間を減らしながら所得を保てる可能性があります。
データから言えること、言えないこと
確認できるのは、日本の平均がOECD平均を下回り、2010年から低下したという事実です。 低下の原因や個々人の働きやすさまでは、この指標単独では確定できません。
データから言えること
- 日本の2024年値は1,617時間で、OECD平均より124時間少ない
- G7では米国、イタリア、カナダが日本を上回る
- 日本は2010年から2024年までに116時間減少した
- 韓国も長期的に大幅な短縮が進んでいる
このデータだけでは言えないこと
- 日本の正社員が他国の正社員より短く働いているか
- 労働時間の減少が制度改革だけで生じたか
- 年代別・男女別に誰の時間が減ったか
- サービス残業がどの程度含まれているか
- 労働時間の短縮で生活の満足度が上がったか
特に、平均値の低下を一つの政策や制度だけに結び付けるのは早計です。雇用者の年齢構成、短時間就業、景気、産業構成なども同時に変わっています。
次に見るべきは「誰の時間が減ったか」
日本を単純な長時間労働国と呼ぶだけでは、現在の実態を捉えきれません。 年間平均はすでにOECD平均を下回る一方、長時間勤務が特定の年代、性別、職種に集中している可能性は残ります。
今後確認したいのは、平均値の順位より次の点です。
- 週50時間・60時間以上働く人の割合が下がっているか
- 25~54歳の働き盛り世代で短縮が進んでいるか
- 男女の有償労働と無償労働を合計した負担がどう違うか
- 時間当たり賃金や実質所得が労働時間の短縮に伴っているか
- 正規・非正規、自営業者、産業別で変化が偏っていないか
年間1,617時間という平均は、国際的に突出した数字ではありません。次の焦点は、その平均の内側で長く働き続けている人と、十分に働けていない人を分けて捉えることです。
