日本人の海外留学は9.1万人に回復――コロナ前に届かず、北米と短期で分かれる動き
日本の大学等が把握する海外留学者数は、2024年度に91,054人まで回復した。ただし、コロナ前の2019年度の84.8%、過去最多だった2018年度の79.1%にとどまり、人数が元の水準に戻ったとは言えない。
回復の中身も一様ではない。2023年度から2024年度にかけて総数は増えたが、北米への留学は減少。期間別では1か月未満が増える一方、1か月以上の各区分は減った。総数だけでは見えない違いがある。
この記事では、日本学生支援機構(JASSO)の日本人学生留学状況調査を使い、次の3点を確認する。
- コロナ前と比べて、人数はどこまで戻ったか。
- 行き先の国・地域によって、増減はどう違うか。
- 短期の海外経験と、長い期間の留学を同じ「回復」として扱えるか。
使用データ:日本の大学等が把握した留学開始者を比べる
この調査が数えるのは、日本人全体の海外留学ではなく、日本の大学等に在籍する学生の留学開始者だ。
2026年10月8日時点で確認できる最新結果は、2026年5月29日公表の2024年度調査。対象期間は2024年4月1日〜2025年3月31日で、2025年10月時点の学校からの回答を集計している。JASSOの公表資料
対象と比較条件は以下のとおり。
- 対象校:日本の大学・大学院、短期大学、高等専門学校、専修学校の専門課程。
- 対象活動:海外の教育機関等に関連する教育・研究、語学習得、異文化体験など。学位取得を目的としない短期プログラムも含む。
- 集計範囲:学校間の協定等に基づく留学と、協定等によらない留学の合計。後者は在籍校が把握した範囲に限る。
- 比較方法:総数はコロナ前からの年度推移、行き先と期間は主に2023年度と2024年度を比較する。
したがって、高校生、社会人、日本の大学等に在籍せず海外大学へ直接進学した人まで網羅した数字ではない。また、その年度に留学を始めた人数であり、ある日に海外で学んでいる人数とも異なる。調査の定義
人数の回復:2019年度の約85%で、直近の増加は小さい
留学開始者数は急減から大きく持ち直したが、2024年度には増加の速度が落ちた。
| 年度 | 留学開始者数 |
|---|---|
| 2014年度 | 81,219人 |
| 2018年度 | 115,146人 |
| 2019年度 | 107,346人 |
| 2020年度 | 1,487人 |
| 2021年度 | 10,999人 |
| 2022年度 | 58,162人 |
| 2023年度 | 89,179人 |
| 2024年度 | 91,054人 |
出典:JASSO「2023年度調査結果」「2024年度調査結果」。いずれも協定等に基づく・基づかない留学の合計。
「戻ったか」は基準年で答えが変わる
2024年度は2019年度より16,292人少ない。2019年度を100とすれば84.8で、まだ約15%の差がある。
過去最多の2018年度を基準にすると、差は24,092人に広がる。一方、2014年度の人数は上回っている。ここで読み取れるのは、留学開始者数がコロナ前に増えていたことと、その高い水準への回復が途中にあることだ。「以前より多い」という説明には、どの年と比べたのかが欠かせない。
急回復の翌年は2.1%増
2022年度から2023年度には31,017人、53.3%増えた。ところが2023年度から2024年度の増加は1,875人、2.1%だった。割合は公表人数から算出した。
前年の大きな伸びを、そのまま翌年以降に延ばすことはできない。2024年度も増加は続いているものの、過去最多との差が同じ速度で縮まるとは限らない。
また、ここで比較しているのは人数である。学生総数に占める留学経験者の割合ではないため、学生一人ひとりの留学のしやすさまで、この推移だけで判断することはできない。
行き先の変化:アジアと欧州が増え、北米は減った
2024年度の総数増加は、すべての行き先がそろって回復した結果ではない。
主な地域の前年との差を見ると、動きが分かれる。
- アジア:34,503人から36,904人へ、2,401人増。全体に占める割合は38.7%から40.5%へ上昇。
- 欧州:19,525人から20,831人へ、1,306人増。
- 北米:21,138人から19,363人へ、1,775人減。
- 大洋州:12,034人から12,269人へ、235人増。
アジアと欧州の増加合計は3,707人で、全体の増加1,875人を上回る。他地域の減少などが、その増加を相殺している。欧州は人数で北米を上回った。地域別・国別の原表
国別首位は米国だが、米国とカナダはともに減少
2024年度の上位5か国は次のとおり。増減は2023年度との差で、同じ調査範囲で比較した。
| 留学先 | 2024年度 | 前年度との差 |
|---|---|---|
| 米国 | 12,627人 | 890人減 |
| オーストラリア | 9,329人 | 166人増 |
| 韓国 | 8,360人 | 24人減 |
| カナダ | 6,736人 | 885人減 |
| 英国 | 5,381人 | 344人増 |
米国は引き続き最大の行き先だが、全体に占める割合は15.2%から13.9%へ低下した。国別首位であることと、人数が増えていることは別である。
アジアでも増減はそろわない。韓国はほぼ横ばいだった一方、フィリピンは3,200人から3,697人へ、中国は3,133人から3,615人へ増加した。「アジアへの留学が増えた」を、そのまま各国すべての説明には使えない。
ランキングは「人気」だけを測っていない
行き先の人数には、学生の希望に加え、在籍校が用意する協定先やプログラム、募集枠も関わりうる。ただし、この調査はそれぞれの要因が増減にどれだけ寄与したかを測っていない。
北米の減少を円安や費用だけで説明するのも早い。そうした仮説を検証するには、渡航費・授業料・滞在費の変化に加え、応募者数、採用者数、辞退理由などが必要になる。
さらに、この国別比較から分かるのは直近1年間の変化だ。コロナ前から行き先がどれだけ入れ替わったかという問いとは、比較期間が異なる。
期間の変化:総数が増えても、1か月以上は減っている
2024年度の増加を支えたのは1か月未満の留学で、より長い期間の各区分は前年を下回った。
期間別の内訳は次のとおり。括弧内は2023年度。
- 1か月未満:60,301人(57,044人)
- 1か月以上3か月未満:8,517人(8,747人)
- 3か月以上6か月未満:10,130人(10,376人)
- 6か月以上1年未満:9,907人(10,420人)
- 1年以上:1,793人(2,122人)
- 期間不明:406人(470人)
1か月未満は3,257人増え、全体の66.2%を占めた。一方、1か月以上の4区分を合計すると30,347人となり、前年の31,665人から1,318人減っている。割合と合計は公表値から算出した。
これは、「留学者数が増えた」と「長く海外で学ぶ人が増えた」が一致しないことを示す。
短期と長期では、生活への関わり方が違う
短い語学・異文化体験プログラムと、半年や1年の留学では、滞在費を負担する期間も、日本の在籍校で履修を組む際の条件も異なる。家族や学生が知りたいのは、総数だけでなく、自分が検討する期間に近い留学がどう動いているかだ。
ただし、短期の増加を「長期留学を諦めて短期に変更した結果」と読むことはできない。この調査は、同じ学生が希望を変更した経緯を追うものではない。短期プログラムの参加者が増えたことと、長期の各区分が減ったことを分けて受け止める必要がある。
行き先と期間を重ねると、地域差の意味が変わる
アジアへの留学36,904人のうち、1か月未満は30,346人で約82.2%。北米では19,363人のうち10,211人で約52.7%だった。
同じ「1万人の留学」でも、期間の内訳は地域によって違う。行き先の構成変化と留学期間の構成変化は切り離せない。人数の多さから、その地域で長く学ぶ機会まで多いと結論づけるのは避けたい。
数字の限界:回復の理由や、留学できなかった人は見えない
この調査は実際に始まった留学を捉える一方、希望していたのに実現しなかった人を直接数えていない。
読み違えやすい点を整理しておこう。
公表年と対象年度を混同しない
2026年に公表された91,054人は、2024年度に留学を始めた人数である。2026年現在の渡航状況をそのまま表す数字ではない。
なお、2024年度報告書PDFの注3には「2023年度中」との表記があるが、報告書の調査概要と結果掲載ページは2024年度を対象としている。本記事は概要と掲載ページの対象期間に沿っている。
長い時系列には調査範囲の違いがある
協定等に基づかない留学の調査は2009年度から始まり、高等専門学校と専修学校の専門課程は2013年度から対象になった。2000年代初めの数字と現在の総数を、そのまま同じ条件で比較することはできない。
本記事の人数表は2014年度以降を取り上げている。それでも、協定等によらない留学は学校の把握範囲に限られるという条件は残る。
家計や留学意欲の変化は、別の資料が必要
人数が減った国について、費用負担の増加や関心の低下を断定することはできない。逆に、人数の増加だけで「誰でも留学しやすくなった」とも言えない。
家庭の所得、支援の有無、応募しても参加できなかった理由を調べなければ、海外経験を得る機会の差は見えない。この統計で確かめられるのは留学開始者の動きであり、その背後にある希望や負担のすべてではない。
次に見る数字:総数とともに、期間別の回復を確かめる
次の公表で注目したいのは、9.1万人から何人増えるかだけでなく、どの期間・行き先で増えるかだ。
今回の結果を踏まえると、確認点は3つに絞れる。
- 総数:2019年度の107,346人との差が縮まるか。
- 期間:1か月以上の各区分も増加へ転じるか。
- 行き先:北米の減少が続くか、アジア・欧州の増加が続くか。
総数が増えても短期だけが伸びる場合と、半年以上の留学も増える場合では、回復の中身が異なる。学生や家族が留学先を検討するときも、国別順位だけでなく、在籍校で参加できるプログラムの期間、費用、単位の扱いを確認することが、全国の数字を自分の選択につなげる出発点になる。
