転職者は10年で増えたのか 330万人と4.8%が示す「横ばい」の実像
日本の転職者は、10年前より増えています。ただし、増加が続いているわけではありません。
総務省「労働力調査」によると、2025年の転職者は330万人。2015年の299万人を31万人上回る一方、2019年の353万人には届かず、2023年以降は330万人前後で足踏みしています。転職する人が一貫して増えている、とは言えない状況です。
この記事の要点は次の通りです。
- 2025年の転職者は330万人、就業者に占める転職者比率は4.8%
- 2015年から2025年までに転職者は31万人増えたが、2019年のピークは下回る
- 転職者比率も10年前より0.1ポイント高いだけで、長期的な上昇は緩やか
- 転職等希望者は1,023万人と過去最多で、「希望」と「実際の転職」の差が広がっている
使用データと「転職者」の定義
この記事では、全国を対象とした総務省統計局「労働力調査(詳細集計)」の年平均値を使います。
比較条件は以下の通りです。
- 使用データ:労働力調査(詳細集計)
- 対象地域:全国
- 主な比較期間:2015~2025年
- 単位:転職者数は万人、転職者比率は%
- 2025年結果の公表日:2026年2月13日
- 年齢別比較:2024年平均(年齢別の推移を確認しやすい公表表を使用)
労働力調査における「転職者」は、現在は就業しており、前職があって、過去1年間に離職を経験した人です。転職サイトへの登録者や、転職したいと考えている人の数ではありません。
一方、「転職等希望者」には、現在の仕事を辞めて別の仕事に移りたい人だけでなく、現在の仕事に加えて別の仕事もしたい人が含まれます。両者は似て見えますが、測っている行動が異なります。
2025年の転職者は330万人、前年比では減少
最新の年平均では、転職者数も転職者比率もわずかに低下しました。
2025年の転職者は330万人で、前年の331万人から1万人減りました。減少は4年ぶりです。転職者比率も、2024年の4.9%から2025年は4.8%へ0.1ポイント低下しました。
就業者全体は2025年に6,820万人でした。転職者数がほぼ変わらないなかで就業者が増えたため、就業者に占める割合はわずかに下がっています。
この結果から読み取れるのは、2025年に転職が急減したということではありません。1万人の減少は330万人という規模に対して小さく、実態は「高止まりに近い横ばい」です。
2015~2025年の推移を数字で確認
10年間を通して見ると、転職者は増えたものの、2019年を境に一直線の増加ではなくなりました。
| 年 | 転職者数 | 転職者比率 |
|---|---|---|
| 2015年 | 299万人 | 4.7% |
| 2016年 | 307万人 | 4.8% |
| 2017年 | 311万人 | 4.8% |
| 2018年 | 330万人 | 4.9% |
| 2019年 | 353万人 | 5.2% |
| 2020年 | 321万人 | 4.8% |
| 2021年 | 290万人 | 4.3% |
| 2022年 | 303万人 | 4.5% |
| 2023年 | 328万人 | 4.9% |
| 2024年 | 331万人 | 4.9% |
| 2025年 | 330万人 | 4.8% |
2015~2019年は増加局面
2015年の299万人から2019年の353万人まで、転職者は4年間で54万人増えました。転職者比率も4.7%から5.2%へ0.5ポイント上昇しています。
人数だけでなく比率も上がっているため、この時期は就業者の増加だけでは説明できません。就業者の中で、実際に職を移った人の割合も高まっていました。
2020~2021年に急減
2020年には321万人、2021年には290万人へ減少しました。2019年から2021年までの減少幅は63万人です。転職者比率も5.2%から4.3%へ下がりました。
この時期は新型コロナウイルス感染症の拡大と重なります。ただし、同時期に起きたというだけで、減少のすべてを感染症だけの結果と断定することはできません。企業の採用抑制、求職者の慎重化、産業ごとの雇用状況などが複合的に関係した可能性があります。
2022年以降は回復したが、過去最高は更新せず
転職者は2022年に303万人、2023年には328万人まで戻りました。その後は331万人、330万人と推移しています。
2021年の落ち込みからは回復しましたが、2019年の353万人との差は2025年時点でも23万人あります。したがって、「転職者が過去最多を更新し続けている」という見方は数字と合いません。
ここがポイント: 2025年の330万人は10年前より多い一方、2019年より少ない水準です。長期増加と直近の横ばいを分けて捉える必要があります。
「転職したい人」は過去最多になった
実際の転職者が横ばいである一方、転職や追加就業を望む人は大きく増えています。
2025年の転職等希望者は1,023万人。前年から23万人増え、比較可能な2013年以降で最多となりました。実際の転職者330万人の約3.1倍です。
もっとも、この差をそのまま「転職できなかった人」と解釈してはいけません。
- 転職等希望者には、副業など別の仕事を追加したい人も含まれる
- 希望していても、直ちに求職活動を始めるとは限らない
- 希望者と転職者は、同じ人を追跡した統計ではない
- 転職者は「過去1年間の離職経験」、希望者は調査時点の意向を測る
それでも、希望者が1,000万人を超える一方で実際の転職者が330万人前後にとどまる状況は重要です。賃金や労働時間、勤務地、雇用形態を変えたいという意向が、必ずしも実際の移動につながっていない可能性を示すからです。
今後は転職者数だけでなく、転職等希望者が求職活動や実際の移動へ進むかを見る必要があります。
年代で大きく違う転職率
転職のしやすさや頻度を考えるとき、全年代の平均4.8%だけでは実態をつかめません。
2024年の年齢階級別転職者比率は、若い層ほど高い傾向が明確でした。
| 年齢階級 | 転職者数 | 転職者比率 |
|---|---|---|
| 15~24歳 | 61万人 | 10.8% |
| 25~34歳 | 76万人 | 6.8% |
| 35~44歳 | 61万人 | 4.8% |
| 45~54歳 | 58万人 | 3.6% |
| 55~64歳 | 49万人 | 3.9% |
| 65歳以上 | 25万人 | 2.7% |
15~24歳の比率は10.8%で、全年代平均4.9%の2倍を超えます。一方、転職者数が最も多いのは25~34歳の76万人です。
人数と比率で最多の年代が違うのは、各年代の就業者数が異なるためです。転職市場の規模を見たい場合は人数、個人が1年間に転職する頻度を比べたい場合は比率が適しています。
なお、15~24歳には学校を卒業して初めて就職しただけの人は含まれません。「前職があり、過去1年間に離職した」という転職者の定義は全年代で共通です。
転職者数が増減する背景をどう読むか
統計が直接示すのは人数と割合であり、転職の理由や因果関係は別の資料と組み合わせて検討する必要があります。
労働人口と年齢構成
転職者数は、就業者の母数に左右されます。働く人が増えれば、転職率が変わらなくても転職者数は増え得ます。
また、転職率の高い若年層が就業者全体に占める割合が変われば、全年代の平均も動きます。高齢就業者の増加は、転職者数の単純な年次比較を難しくする要因です。
賃金・物価と働き方
物価上昇に賃金が追いつかないと、より高い収入を求める動きが強まる可能性があります。反対に、生活費や住宅ローンの負担が重い局面では、収入が途切れるリスクを避けて転職を見送る人もいます。
このため、物価上昇と転職希望者の増加が同時に起きても、物価だけが原因とは断定できません。希望する賃金、求人の職種、勤務地、必要な技能が一致するかも実際の転職を左右します。
求人があっても移動が増えるとは限らない
求人件数が多くても、求職者の希望に合うとは限りません。介護、建設、情報通信など、採用需要の強さは産業によって異なります。地域間でも求人の内容や賃金水準は違います。
全国の転職者数は、こうした違いを一つにまとめた値です。特定の職種や地域で転職しやすくなっていても、全国平均には小さな変化としてしか表れない場合があります。
国際比較で「日本は転職が少ない」と言い切れるか
各国の転職関連指標は定義がそろいにくく、国内統計の4.8%を外国の数値と直接並べるのは危険です。
国際比較では、勤続年数が1年未満の雇用者割合、一定期間内に仕事を変えた割合、離職率、入職率などが使われます。しかし、これらは日本の労働力調査における転職者比率と同じ指標ではありません。
比較時に確認すべき条件は次の通りです。
- 分母が就業者全体か、雇用者だけか
- 自営業から雇用者への移動を含むか
- 離職後に無職期間がある人を含むか
- 調査期間が過去1年か、調査月・四半期か
- 新卒就職者や複数就業者をどう扱うか
OECDの勤続年数データは各国の雇用の流動性を見る手掛かりになりますが、「勤続1年未満」は必ずしも転職者ではありません。初めて就職した人や、離職期間を経て再就職した人も含み得るためです。
国際差を読むなら、同じデータベース内で定義と対象年をそろえた指標を使い、日本の転職者比率とは別の比較として扱うのが適切です。
データを読む際の注意点
小幅な増減を、転職市場の急変と受け取らないことが大切です。
労働力調査は、全国約4万世帯を対象とする標本調査です。詳細集計の特定調査票は、そのうち約1万世帯が対象となります。全員を調べた悉皆調査ではないため、1万人単位の小さな差には標本誤差が含まれます。
さらに、次の点にも注意が必要です。
- 転職者数は年間に発生した転職件数ではなく、調査時点の就業者のうち過去1年間に離職した経験がある人の推計値
- 1人が1年間に複数回転職しても、転職回数を数える統計ではない
- 2025年の数値は全国平均で、都道府県別の転職率を示すものではない
- 年齢別の人数は四捨五入されているため、内訳の合計が総数と一致しない場合がある
- 2018年から詳細集計の就業状態区分が変更されており、一部指標の長期比較には定義変更の確認が必要
また、厚生労働省「雇用動向調査」の「転職入職者」は、事業所側から把握した入職者を基礎にする指標です。調査対象や定義が労働力調査と違うため、数値が一致しなくても矛盾ではありません。
次に見るべきは「希望が移動につながるか」
転職者は10年前より増えましたが、直近3年間は330万人前後で横ばいです。 2025年の4.8%という比率も、2015年の4.7%から大きくは変わっていません。
一方、転職等希望者は1,023万人まで増えました。今後の焦点は、転職者数が2019年の353万人を再び超えるかだけではありません。
- 転職等希望者と実際の転職者の差が縮まるか
- 15~34歳の高い転職率が続くか
- 35歳以上でも転職率が上がるか
- 就業者数が増えるなかで、転職者比率が5%台へ戻るか
転職市場の変化を確かめるなら、求人の多さだけでなく、毎年公表される転職者数、転職者比率、転職等希望者数をセットで追う必要があります。次の年次結果でまず注目したいのは、1,000万人を超えた希望者が実際の職業移動に結び付くかです。
