人手不足が最も厳しい業界は?建設・医療福祉・運輸を2つの雇用データで検証
2026年5月時点で正社員の不足感が最も強いのは、建設業です。厚生労働省の調査では、建設業の正社員等労働者過不足判断D.I.がプラス59ポイント。医療・福祉のプラス57、運輸業・郵便業のプラス55が続きました。
一方、求人が増えている業界と、人手不足感が強い業界は必ずしも一致しません。2026年6月の新規求人は製造業などで前年を上回りましたが、求人全体の増加だけでは「採用しやすくなった」とまでは判断できないためです。
この記事では、企業が感じる不足感と、ハローワークに出た求人の動きを分けて読みます。
- 正社員不足D.I.の上位は、建設業59、医療・福祉57、運輸業・郵便業55
- 情報通信業と学術研究・専門・技術サービス業も54で高い
- 2026年6月の新規求人は全産業で前年同月比3.1%増
- 求人数の増減は採用難易度や欠員率そのものではない
使用データと比較条件
中心となるのは、厚生労働省が公表する2種類の統計です。 それぞれが測っているものは異なります。
企業側の不足感を見る「労働経済動向調査」
産業別の比較には、厚生労働省「労働経済動向調査」の2026年5月調査を使います。調査時点は2026年5月1日です。
この調査は、主要産業に属する常用労働者30人以上の民営事業所から抽出した5,786事業所を対象とし、四半期ごとに実施されています。
記事で使う「正社員等労働者過不足判断D.I.」は、正社員などが「不足」と答えた事業所の割合から、「過剰」と答えた割合を引いた値です。
- プラス幅が大きい:不足と答えた事業所が多い
- 0に近い:不足と過剰がおおむね均衡
- マイナス:過剰と答えた事業所が多い
例えば建設業の59は、労働者が59%足りないという意味ではありません。「不足」とした事業所が60%、「過剰」が1%で、その差が59ポイントという意味です。
求人市場の動きを見る「一般職業紹介状況」
求人側には、2026年6月の「一般職業紹介状況」を使います。全国のハローワークにおける求人、求職、就職の状況をまとめた月次統計です。
主に確認するのは次の数値です。
- 有効求人倍率:1.18倍(季節調整値)
- 新規求人倍率:2.16倍(季節調整値)
- 正社員有効求人倍率:1.00倍(季節調整値)
- 新規求人数:前年同月比3.1%増(原数値)
D.I.は企業への意識調査、新規求人数はハローワークで受理した求人の件数です。両者を組み合わせると、企業が人手をどれほど不足と感じているか、その状況で求人が増えているかを別々に確認できます。
正社員の不足感は建設、医療・福祉、運輸で特に強い
2026年5月の上位3業種は、建設業、医療・福祉、運輸業・郵便業です。 調査対象12業種のすべてでD.I.がプラスとなり、人員の過剰感より不足感が上回りました。
| 順位 | 産業 | 不足 | 過剰 | 過不足判断D.I. |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 建設業 | 60% | 1% | +59 |
| 2 | 医療・福祉 | 60% | 3% | +57 |
| 3 | 運輸業・郵便業 | 56% | 1% | +55 |
| 4 | 情報通信業 | 55% | 1% | +54 |
| 4 | 学術研究、専門・技術サービス業 | 56% | 2% | +54 |
| 6 | サービス業(他に分類されないもの) | 50% | 2% | +48 |
| 7 | 製造業 | 47% | 3% | +44 |
| 8 | 宿泊業・飲食サービス業 | 40% | 2% | +38 |
| 9 | 不動産業・物品賃貸業 | 38% | 2% | +36 |
| 9 | 生活関連サービス業・娯楽業 | 39% | 3% | +36 |
| 11 | 金融業・保険業 | 33% | 1% | +32 |
| 12 | 卸売業・小売業 | 34% | 3% | +31 |
単位:%、ポイント。「不足」は「やや不足」と「不足」の合計、「過剰」は「やや過剰」と「過剰」の合計。D.I.は「不足」-「過剰」。同順位は同値。
調査産業計では、不足49%、過剰2%、D.I.はプラス47でした。建設業は全体を12ポイント、医療・福祉は10ポイント、運輸業・郵便業は8ポイント上回ります。
ただし、4位の情報通信業と学術研究・専門・技術サービス業もプラス54です。人手不足は現場作業を伴う業種だけの問題ではなく、専門知識や技術を必要とする仕事にも広がっています。
ここがポイント: 2026年5月の正社員不足は建設、医療・福祉、運輸で特に強いものの、情報通信や専門・技術サービスとの差も小さく、人材確保の難しさは複数の業界にまたがっています。
3四半期の推移では「高止まり」が見える
上位業種の不足感は一時的に急上昇したのではなく、2025年11月から高い水準が続いています。 ただし、2026年5月には多くの業種でD.I.が前回調査より低下しました。
| 産業 | 2025年11月 | 2026年2月 | 2026年5月 | 2月→5月 |
|---|---|---|---|---|
| 建設業 | +63 | +60 | +59 | -1 |
| 医療・福祉 | +58 | +56 | +57 | +1 |
| 運輸業・郵便業 | +60 | +63 | +55 | -8 |
| 情報通信業 | +58 | +62 | +54 | -8 |
| 学術研究、専門・技術サービス業 | +59 | +62 | +54 | -8 |
| 調査産業計 | +49 | +49 | +47 | -2 |
単位:ポイント。各調査月の1日現在。
運輸、情報通信、専門・技術サービスは、2月から5月にかけて8ポイント低下しました。それでも全体のプラス47を上回っています。したがって、「不足感が和らいだ」という読み方はできますが、「人手不足が解消した」とは言えません。
医療・福祉は前回より1ポイント上昇しました。3回の調査すべてがプラス56~58の狭い範囲にあり、強い不足感が継続しています。
日本銀行の2026年6月短観でも、全規模・全産業の雇用人員判断D.I.はマイナス37でした。日銀短観は「過剰」から「不足」を引くため、厚生労働省のD.I.とは符号が逆です。マイナス幅が大きいほど不足感が強く、2026年9月までの予測はマイナス40と、企業は先行きの不足拡大を見込んでいます。
求人は増えたが、業界ごとの動きはそろっていない
2026年6月の新規求人は全体で増えましたが、増加した業種と減少した業種に分かれました。 前年同月比は原数値による比較です。
増加が目立った業種は次の通りです。
- サービス業(他に分類されないもの):11.5%増
- 製造業:10.4%増
- 宿泊業・飲食サービス業:5.4%増
一方、減少した主な業種は以下です。
- 情報通信業:6.4%減
- 卸売業・小売業:2.6%減
- 教育・学習支援業:2.2%減
ここで注意したいのは、求人の増減率と人手不足D.I.は順位表として直接比べられないことです。
例えば情報通信業は、5月の正社員不足D.I.がプラス54と高い一方、6月の新規求人は前年同月より6.4%減りました。この組み合わせから確認できるのは、「不足感が強いのに、ハローワークの新規求人は前年より少なかった」という事実までです。
背景としては、採用計画の変更、民間求人媒体や自社採用の利用、必要な技能を持つ応募者の不足、既存社員の離職など複数の可能性があります。しかし、今回の2統計だけではどれが主因かを特定できません。
反対に、製造業では新規求人が10.4%増えましたが、D.I.はプラス44で、建設業などより低い水準です。求人が増えたことは企業の採用活動が活発になった可能性を示す一方、採用の成否や欠員の大きさまでは示しません。
生活への影響が出やすい3業種
不足感上位の建設、医療・福祉、運輸は、生活を支えるサービスと直接つながっています。 人員が足りない状態が続けば、企業内の採用問題にとどまらず、工事、医療・介護、物流の供給体制にも関係します。
建設業
建設業のD.I.はプラス59で最も高く、不足と回答した事業所は60%でした。
建設業には住宅やビルの新築だけでなく、道路、橋、水道などの整備・維持に関わる事業所も含まれます。人員不足が続く局面では、発注者や利用者が注目すべき点は求人件数だけではありません。
- 工事の着手・完成までの期間
- 修繕や保守の受注体制
- 人件費を含む工事費の動き
- 地域や工種による人材確保の差
ただし、このD.I.から工期の遅延件数や建設費の上昇率を直接説明することはできません。それらを検証するには、建設工事費デフレーター、公共工事の入札結果、工期など別のデータが必要です。
医療・福祉
医療・福祉はプラス57で、2025年11月以降ほぼ横ばいです。5月時点で不足とした事業所は60%でした。
この産業には病院、診療所、介護事業所、障害福祉事業所などが含まれます。利用者にとっては、施設が存在するかだけでなく、必要な職員を確保してサービスを提供できるかが重要です。
一方、産業全体のD.I.では、看護、介護、事務など職種ごとの差は分かりません。地域別の状況も示されないため、個別地域の医療・介護サービス不足を判断するには、職種別求人倍率や自治体の医療・介護人材データを重ねる必要があります。
運輸業・郵便業
運輸業・郵便業はプラス55。2月のプラス63から低下したものの、依然として3番目に高い水準です。
この業界の人員配置は、貨物輸送、宅配、路線バスなどの運行・配送能力に関係します。ただし、産業別D.I.はトラック運転者、バス運転者、倉庫作業者といった職種を分けていません。
利用者が実際の影響を追うなら、次に見るべきなのは運行本数、配送日数、路線の休廃止、職種別求人倍率です。産業全体の不足感は警戒信号ですが、どのサービスに影響が集中するかは追加データで確かめる必要があります。
なぜ「求人が多い=最も不足」とは限らないのか
人手不足を判断するには、企業の不足感、募集量、求職者数、採用結果を分ける必要があります。 1つの数字だけでは、採用市場の全体像を描けません。
求人数は業界規模の影響を受ける
従業者が多く事業所数も多い業界では、同じ不足率でも求人の絶対数が大きくなりやすくなります。求人件数だけのランキングでは、業界規模と不足の深刻さが混ざります。
比較するなら、次のような分母が必要です。
- 就業者1,000人当たりの求人数
- 事業所当たりの未充足求人
- 求人に対する求職者の比率
- 採用予定数に対する充足率
今回のD.I.は事業所の回答割合を使うため、求人の絶対数とは違う角度から不足感を示します。
新規求人の増加は「欠員増」とも「採用強化」とも読める
求人が増えた場合、業務拡大による増員、退職者の補充、採用できず繰り返し募集しているケースなどが考えられます。逆に求人が減っても、不足が解消したとは限りません。採用を諦めた、別の募集経路へ移った、業務を縮小した可能性も残ります。
そのため、求人の増減と同時に、就職件数、充足率、離職率、未充足求人を確認する必要があります。
全国平均は地域差を隠す
2026年6月の有効求人倍率は全国で1.18倍でしたが、就業地別では福井県が1.72倍、大阪府が0.96倍でした。受理地別では東京都が1.70倍、神奈川県が0.84倍です。
同じ業界でも、地域の人口構成、産業集積、賃金、通勤圏によって採用環境は変わります。ただし、全国の産業別D.I.と都道府県別の求人倍率を掛け合わせて、県別・業界別の不足度を推計することはできません。集計単位と調査方法が異なるためです。
データを読むときの注意点
今回の比較で分かるのは産業別の不足感と求人の方向であり、職種別・地域別の欠員数ではありません。 誤読を避けるため、次の違いを押さえておく必要があります。
- 労働経済動向調査は、主要産業の常用労働者30人以上の民営事業所を対象とする標本調査
- 正社員等には、雇用期間を定めず雇用されている者など、調査上の定義がある
- D.I.は不足した人数の割合ではなく、不足回答割合と過剰回答割合の差
- 一般職業紹介状況はハローワークの取扱実績で、民間求人媒体や企業の採用ページに出た全求人を網羅しない
- 2026年6月の産業別新規求人の増減率は原数値による前年同月比較
- 有効求人倍率などの月次値は季節調整値で、産業別新規求人の前年同月比とは比較方法が異なる
- 2021年9月以降の職業紹介統計には、オンライン求職登録や求人への直接応募などが含まれる
- 2023年7月改定の日本標準産業分類が使われているため、長期比較では分類変更の影響を確認する必要がある
また、正社員有効求人倍率1.00倍は、正社員の有効求人数を、パートを除く常用の有効求職者数で割った値です。分母には派遣労働者や契約社員を希望する人も含まれるため、厚生労働省は厳密な意味での正社員倍率より低くなると説明しています。
次に見るべきは「何人足りないか」と「採用できたか」
現時点の結論は、建設、医療・福祉、運輸を中心に、正社員の強い不足感が続いているということです。 情報通信や専門・技術サービスもほぼ同水準であり、人手不足を現場系の業界だけに限定して見ることはできません。
今後は、D.I.が高いかどうかだけでなく、次の指標がどう動くかが重要です。
- 2026年8月以降の労働経済動向調査で不足D.I.が再び上昇するか
- 職種別の有効求人倍率で、建設、医療・介護、運輸関連職の差がどう表れるか
- 求人数の増加が就職件数や充足率の改善につながるか
- 福井県と大阪府など、求人倍率の地域差が縮小するか
- 不足の長期化が工期、医療・介護の提供体制、運行・配送サービスにどう表れるか
「求人が増えた」というニュースだけでは、人手不足の改善も悪化も決められません。企業の不足感、求職者との需給、実際の採用結果。この3つを同じ時期・同じ職種に近づけて追うことが、生活への影響を見極める次の一歩です。
