MENU

残業は10年で1割減、それでも運輸は月20.6時間 産業別データで見る働き方の差

産業別の残業時間データを分析するオフィスの様子。

残業は10年で1割減、それでも運輸は月20.6時間 産業別データで見る働き方の差

残業時間は、全体では確かに減っています。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、常用労働者1人当たりの所定外労働時間は、2015年の月11.0時間から2025年には9.8時間へ減少しました。減少率は約10.9%です。

ただし、すべての産業が同じ方向に動いたわけではありません。2025年も運輸業・郵便業は月20.6時間と全産業平均の2倍を超え、教育・学習支援業や金融・保険業では2015年より所定外労働時間が増えています。

この記事で分かることは、次の4点です。

  • 全産業の所定外労働時間は1990年から約24%、2015年から約11%減った
  • 2025年に最も長い産業は運輸業・郵便業で、月20.6時間
  • 2015年比では多くの産業が減少した一方、教育・学習支援業などは増加
  • 平均値の低下だけでは、長時間労働者の減少や仕事量の変化までは判断できない
目次

使用したデータと比較条件

比較の中心は、2015年と2025年の「1人平均月間所定外労働時間」です。

使用したのは、厚生労働省「毎月勤労統計調査」の2015年分結果確報と2025年分結果確報です。比較条件はそろえてあります。

  • 対象地域:全国
  • 対象年:2015年、2025年
  • 対象事業所:常用労働者を5人以上雇用する事業所
  • 対象者:一般労働者とパートタイム労働者を合わせた「就業形態計」
  • 指標:1人平均月間所定外労働時間
  • 2025年結果の公表日:2026年2月25日

厚生労働省の用語解説では、所定外労働時間を、早出、残業、臨時の呼び出し、休日出勤などのうち、事業所の就業規則などで定めた所定労働時間を超えて実際に働いた時間としています。

これは「残業代が支払われた時間」そのものではありません。また、本人へのアンケートではなく、事業所が記入する統計です。

全国平均では残業が減った。ただし一直線ではない

長期では減少しているものの、景気や感染症流行の影響を受けながら上下しています。

年平均の所定外労働時間は、1990年の年156時間から2025年の年118時間へ減りました。差は38時間、減少率は約24.4%です。

主な年を抜き出すと、推移は次のようになります。

  • 1990年:156時間
  • 2000年:118時間
  • 2010年:120時間
  • 2015年:132時間
  • 2019年:127時間
  • 2020年:110時間
  • 2023年:120時間
  • 2024年:120時間
  • 2025年:118時間

2020年には110時間まで急減しましたが、2021年は116時間、2022年は121時間へ戻りました。感染症流行期の事業活動縮小による低下を、そのまま恒久的な働き方の変化とみなすことはできません。

一方、2015年の132時間と2025年の118時間を比べると14時間減、約10.6%減です。月間実数でも11.0時間から9.8時間へ減っており、10年単位で見れば「残業は減った」と判断できます。

ここがポイント: 全国平均の低下は事実ですが、2025年の産業別所定外労働時間には月4.9時間から20.6時間まで4倍を超える開きがあります。

産業別では運輸が突出、10年で増えた産業もある

2025年の残業時間は運輸業・郵便業が最長で、産業間の差は縮み切っていません。

以下は、2015年と2025年を同じ区分で比較した結果です。増減率は公表された月間実数から計算しています。

産業2015年
月間
2025年
月間
10年間の増減
調査産業計11.0時間9.8時間-10.9%
建設業13.8時間12.8時間-7.2%
製造業16.0時間13.4時間-16.3%
電気・ガス業15.6時間16.3時間+4.5%
情報通信業17.7時間15.8時間-10.7%
運輸業・郵便業23.8時間20.6時間-13.4%
卸売業・小売業7.3時間7.0時間-4.1%
金融業・保険業11.8時間12.4時間+5.1%
不動産・物品賃貸業12.3時間11.9時間-3.3%
学術研究等13.5時間12.8時間-5.2%
飲食サービス業等5.7時間5.2時間-8.8%
生活関連サービス等7.4時間6.7時間-9.5%
教育・学習支援業7.9時間10.2時間+29.1%
医療・福祉5.1時間4.9時間-3.9%
複合サービス事業7.8時間7.8時間0.0%
その他のサービス業11.4時間10.1時間-11.4%

※鉱業・採石業等は、2025年の前年比が大きく変動しており、労働者数も他産業より少ないため表から除外しました。

運輸業・郵便業は減ってもなお月20時間超

運輸業・郵便業は、2015年の23.8時間から2025年の20.6時間へ3.2時間減りました。約13.4%の減少です。

それでも、2025年の全産業平均9.8時間に対して約2.1倍あります。単純に12倍すると年247.2時間に相当し、全産業平均との差は年129.6時間です。

ただし、この産業区分には鉄道、道路旅客・貨物運送、倉庫、郵便などが含まれます。20.6時間を「トラック運転者だけの平均」と読むことはできません。

製造業と情報通信業は2時間以上減少

製造業は月16.0時間から13.4時間へ2.6時間減り、減少率は約16.3%でした。情報通信業も17.7時間から15.8時間へ1.9時間減っています。

両産業とも2025年時点では全産業平均を上回りますが、10年間の方向は明確に減少です。仕事の繁閑、設備投資、業務のデジタル化、外注化など複数の要因が考えられるものの、この統計だけで減少の原因は特定できません。

教育・学習支援業は月7.9時間から10.2時間へ

教育・学習支援業は、比較した産業の中で増加率が最も大きく、約29.1%増えました。2025年は前年比では11.0%減少しているため、直近1年では改善したものの、2015年の水準までは戻っていません。

この区分には学校教育だけでなく、学習塾や各種教室なども含まれます。教員だけの勤務状況を示す数字ではない点に注意が必要です。

一般労働者に絞ると残業は月13.2時間

就業形態計の平均9.8時間だけを見ると、フルタイムに近い働き方の実態を小さく見積もる可能性があります。

2025年の所定外労働時間は、就業形態によって大きく異なります。

  • 就業形態計:月9.8時間
  • 一般労働者:月13.2時間
  • パートタイム労働者:月2.3時間

産業別でも、一般労働者の運輸業・郵便業は月24.1時間、電気・ガス業は16.9時間、情報通信業は16.5時間でした。就業形態計より高い値です。

全体平均は、産業ごとの残業時間だけでなく、パートタイム労働者の比率にも左右されます。2025年のパートタイム労働者比率は全産業で31.31%。パート比率が上がれば、各職場で一般労働者の残業が変わらなくても、就業形態計の平均は下がることがあります。

上限規制後の変化をどう読むか

制度の施行時期と残業時間の低下は重なりますが、統計だけで制度効果の大きさまでは測れません。

時間外労働の上限規制は、2019年4月から大企業、2020年4月から中小企業に適用されました。適用が猶予されていた建設事業、自動車運転業務、医師にも、2024年4月から規制が始まっています。

2025年の前年比を見ると、所定外労働時間は次のように動きました。

  • 調査産業計:2.5%減
  • 運輸業・郵便業:5.2%減
  • 建設業:1.0%増
  • 医療・福祉:1.2%減
  • 教育・学習支援業:11.0%減
  • 製造業:1.1%増

運輸業・郵便業の減少は上限規制後の変化と同じ方向です。一方、建設業は増加しました。制度の適用だけで全産業が一斉に減るわけではなく、受注量、人手不足、勤務体制、残業の把握方法なども数字に関係します。

さらに、建設業という産業区分の全員が建設作業に従事するわけではなく、運輸業・郵便業の全員が自動車運転者でもありません。制度の対象業務と統計の産業分類は一致しないため、効果検証には職種別・事業所規模別の資料も必要です。

平均残業時間からは見えない4つの限界

平均値は全体の方向をつかむ指標であり、長時間労働の分布を直接示すものではありません。

1. 月9.8時間でも「全員が約10時間」ではない

平均値には、残業がない人と長時間残業をする人が同時に含まれます。月45時間を超える人の割合や、残業時間の中央値は、この表からは分かりません。

2. 事業所規模1~4人は通常の全国調査に含まれない

毎月の全国調査は常用労働者5人以上の事業所が対象です。1~4人規模は年1回の特別調査で補完されるため、今回の10年比較には含めていません。

3. 就業形態の構成変化で平均が動く

短時間勤務者の比率が上がると、個々の一般労働者の残業が十分に減っていなくても、産業全体の平均は低下し得ます。残業の実態を見るときは、就業形態計と一般労働者を併読する必要があります。

4. 古い公表値と最新系列には接続上の注意がある

毎月勤労統計では、調査事業所の抽出替えや母集団労働者数の更新が行われます。増減率は指数から算出され、実数から計算した変化率と一致しない場合もあります。

また、長期時系列では2004~2011年に「時系列比較のための推計値」が使われています。1990年からの38時間減は大きな流れを見るための数字であり、各年の小幅な差を精密に比べる用途には向きません。

次に確認すべきは「平均の内側」

残業は長期的に減りましたが、産業差と就業形態差はなお大きく残っています。

生活者にとって重要なのは、全国平均が1時間下がったかだけではありません。就職や転職、家事・育児との両立を考える場面では、次の順で数字を見ると実態に近づけます。

  • 自分が働く産業の所定外労働時間
  • 就業形態計ではなく、一般労働者の値
  • 月平均だけでなく、長時間労働者の割合
  • 事業所規模や職種による差
  • 残業時間の減少と、給与・人員・業務量の変化

2025年の次の焦点は、2024年に上限規制が始まった運輸、建設、医療の数字が2026年以降も下がるかです。とりわけ運輸業・郵便業が月20時間台から抜け出せるか、建設業の増加が一時的かを追う必要があります。

参照リンク

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次