60歳で給与は約17%低下 2025年の年齢別賃金から見るシニア就労
60歳以降の給与は、全国平均で急に低くなります。厚生労働省の2025年調査では、一般労働者の所定内給与額は55~59歳の月39万6,200円から、60~64歳には32万9,300円へ下がりました。差は月6万6,900円、率にして16.9%です。
ただし、下がり方は一様ではありません。男性は約2割、女性は約1割の低下であり、65~69歳になると男女計でさらに月4万4,000円下がります。
この記事で押さえるポイントは次の4つです。
- 55~59歳から60~64歳への賃金低下は、男女計で16.9%
- 男性は19.5%低下、女性は11.4%低下と差がある
- 65~69歳の賃金は、55~59歳より28.0%低い
- 年齢別平均には雇用形態や職種の変化も含まれるため、同じ人の給与明細の変化とは限らない
使用データと比較条件
中心に使うのは、厚生労働省の「令和7年賃金構造基本統計調査」です。 年齢による給与水準の違いを、同じ年・同じ定義で比較できます。
比較条件は以下のとおりです。
- 対象年:2025年
- 対象地域:全国(一部島しょ部を除く)
- 対象:常用労働者10人以上の民営事業所で働く一般労働者
- 指標:2025年6月分の所定内給与額の平均
- 比較する年齢階級:55~59歳、60~64歳、65~69歳
- 金額:所得税や社会保険料などを引く前の月額
「一般労働者」とは、同じ事業所の通常の所定労働時間・日数で働く人です。短時間労働者は別に集計されています。
また、所定内給与額には残業代、休日出勤手当、深夜勤務手当などが含まれません。賞与も月額には入っていないため、ここで扱う数字をそのまま年収とみなすことはできません。用語の詳しい定義は厚生労働省の解説で確認できます。
調査は2025年7月に行われ、概況は有効回答を得た5万9,836事業所のうち、常用労働者10人以上の民営事業所5万2,242事業所を集計しています。調査範囲や対象産業は調査の概要に示されています。
60~64歳の給与は月6万6,900円下がる
最も大きな段差は、55~59歳から60~64歳へ移るところにあります。
| 年齢階級 | 男女計 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|---|
| 55~59歳 | 39万6,200円 | 44万5,600円 | 30万5,700円 |
| 60~64歳 | 32万9,300円 | 35万8,500円 | 27万800円 |
| 65~69歳 | 28万5,300円 | 30万4,300円 | 24万700円 |
※2025年6月分の所定内給与額。一般労働者、産業計、企業規模計。単位未満を丸めて表記。
55~59歳を基準にすると、60歳以降の変化は次のようになります。
- 60~64歳:月6万6,900円減、16.9%低下
- 65~69歳:月11万900円減、28.0%低下
- 60~64歳から65~69歳:さらに月4万4,000円減、13.4%低下
残業代や賞与を考慮せず、月額差を単純に12倍すると、55~59歳と60~64歳の差は年間約80万円です。65~69歳との差は年間約133万円になります。これは年収の推計ではなく、所定内給与だけで家計にどれほどの幅が生じるかを見るための目安です。
調査結果の数値は、2026年3月24日付の資料に掲載された年齢階級別賃金の表を使用しています。
男性は約2割、女性は約1割下がる
男女で低下率が違う点は、60歳以降の家計を考えるうえで重要です。
男性は月8万7,100円減
男性の所定内給与額は、55~59歳の44万5,600円が年齢別のピークです。60~64歳になると35万8,500円へ下がります。
- 減少額:月8万7,100円
- 低下率:19.5%
- 55~59歳を100とした水準:80.5
65~69歳では30万4,300円となり、55~59歳との差は月14万1,300円、率にして31.7%です。
男性では年齢とともに給与が上昇するカーブが比較的はっきりしており、その頂点が55~59歳にあります。そのため、60歳以降の低下額も大きく見えます。
女性は月3万4,900円減
女性は45~49歳と55~59歳の30万5,700円が最も高く、60~64歳は27万800円です。
- 減少額:月3万4,900円
- 低下率:11.4%
- 55~59歳を100とした水準:88.6
65~69歳では24万700円となり、55~59歳より月6万5,000円、21.3%低くなります。
女性の低下率が男性より小さいからといって、60歳以降の生活への影響が小さいとは限りません。55~59歳時点の平均額自体が男性より13万9,900円低いためです。低下率と給与水準は分けて見る必要があります。
ここがポイント: 60歳以降の賃金低下は男女共通ですが、男性はピークからの落差が大きく、女性は低下後の金額がより低いという別々の課題があります。
「60歳になった瞬間に17%減る」という意味ではない
この統計が示すのは、各年齢階級で働いている人の平均値です。55~59歳の同じ人を5年間追跡し、60~64歳になったときの給与を比べた結果ではありません。
したがって、16.9%という差には複数の変化が重なっています。
- 定年後の再雇用で、役職や職務が変わった人
- 正社員から有期契約などへ雇用形態が変わった人
- 転職して別の企業や業種で働く人
- 高い給与を得ていた人が退職し、集計対象から外れる影響
- 60歳以降も同じ役割や処遇で働き続ける人
このため、平均値だけから「定年後は誰でも同じ割合で減給される」とは言えません。一方で、全国の一般労働者を同じ定義で集計しても大きな段差が残ることから、60歳前後が賃金カーブの明確な転換点であることは確認できます。
賃金は上昇しているが、60歳の段差は残る
2025年の60~64歳の賃金は、前年より3.7%上がりました。65~69歳も3.6%上昇しています。それでも、55~59歳との開きはなくなっていません。
年齢別の前年比は次のとおりです。
- 55~59歳:1.1%増
- 60~64歳:3.7%増
- 65~69歳:3.6%増
60歳以降の伸び率が55~59歳を上回ったため、相対的な差は縮まりました。2025年の60~64歳の賃金は、55~59歳を100とすると83.1です。
厚生労働省がまとめた2024年の値では、この比率は81.0でした。さらに2019年は77.3だったとされており、5年間で60~64歳の相対的な賃金水準は改善しています。高年齢者等職業安定対策基本方針によると、2024年の60~64歳の所定内給与額は31万7,700円で、2019年より12.9%増えていました。
ただし、これは物価上昇を差し引いた実質賃金ではありません。名目額が増えても、食料、光熱費、住居費などの上昇が大きければ、購入できる商品やサービスが同じ割合で増えるわけではありません。
また、2020年には賃金構造基本統計調査の労働者定義などが変更されています。長期推移を読む際は、2019年以前と2020年以降を完全に同じ条件の連続データとして扱わない注意が必要です。
雇用の確保と給与水準は別の問題
65歳まで働ける制度はほぼ全企業に広がりましたが、それだけでは定年前の給与が保たれるとは限りません。
2025年6月1日時点で、常用労働者21人以上の企業のうち、65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施済みの企業は99.9%でした。ただし、措置の内容は一つではありません。
- 継続雇用制度の導入:65.1%
- 定年の引き上げ:31.0%
- 残りは定年制の廃止
継続雇用制度には、定年後にいったん退職し、新しい契約で再雇用する形も含まれます。役割、労働時間、雇用区分が変われば、給与水準も変わり得ます。
一方、65歳以上定年の企業と定年制を廃止した企業の合計は34.9%です。前年より2.3ポイント増えたものの、企業の多数派はなお継続雇用制度で65歳までの雇用を確保しています。
70歳までの就業確保措置を実施済みの企業は34.8%でした。65歳までの措置が義務であるのに対し、70歳までの措置は努力義務です。この制度上の違いも、65歳前後で働き方や契約条件が再び変わりやすい背景の一つです。最新の企業集計は厚生労働省の公表資料で確認できます。
家計では「率」より手取りの差を確認する
平均データは全体の位置を知る道具です。自分の生活設計では、勤務先から示される条件を金額に置き換える必要があります。
確認したいのは、基本給だけではありません。
- 賞与の有無と算定方法
- 役職手当や職務手当の変更
- 所定労働日数・時間
- 残業の有無
- 社会保険料や税を引いた後の手取り
- 通勤手当、住宅関連制度、退職金との関係
- 契約期間と更新条件
たとえば「定年前の8割」という提示でも、賞与がなくなれば年間収入の比率は8割を下回ります。反対に、勤務日数が減って余暇が増えるなら、月額だけで条件の良し悪しを決めることもできません。
比較するときは、次の3段階に分けると整理しやすくなります。
- 55~59歳時点の年間総支給額を確認する
- 60歳以降の基本給、手当、賞与、労働時間を同じ単位にそろえる
- 月額・年額・1時間当たりの3つで差を見る
厚生労働省の集計では、60~64歳の転職者のうち、転職後の賃金が1割以上減った人は2024年に53.9%でした。年齢別平均だけでなく、転職を伴うかどうかも収入の分岐点になります。
読む際に注意したい4つの限界
年齢別賃金は全体像をつかむのに適していますが、個人の将来額をそのまま予測する統計ではありません。
1. 短時間労働者は別集計
今回の中心値は一般労働者のものです。定年後に勤務日数や1日の労働時間を減らして短時間勤務へ移った人は、同じ表には含まれません。
2. 賞与と残業代を含まない
所定内給与額だけでは年間収入の変化を捉え切れません。特に賞与の支給月数が変わる場合、月例給与より年収の低下率が大きくなることがあります。
3. 男女差は年齢だけで生じるわけではない
産業、職種、役職、勤続年数、企業規模、雇用形態の構成が男女で異なります。男女別平均の差を、同じ仕事に対する処遇差だけで説明することはできません。
4. 名目賃金である
2025年の金額は、その時点の円で示した名目値です。過去との生活水準を比較する場合は、消費者物価指数などを使って物価変動も確認する必要があります。
調査対象の細かな条件や、回答数が少ない項目を示す記号については利用上の注意にまとめられています。
次に見るべきは「雇用延長」から「処遇の中身」へ
2025年のデータでは、60~64歳の所定内給与は55~59歳より16.9%低い一方、前年からは3.7%上がりました。60歳以降の相対的な賃金水準は改善方向にありますが、年齢階級間の段差はなお月6万円を超えます。
今後の注目点は明確です。
- 60~64歳の賃金が55~59歳に対して何%まで近づくか
- 定年引き上げの企業が増えると、継続雇用中心の賃金カーブが変わるか
- 65~69歳で生じる2度目の低下が縮小するか
- 月額だけでなく、賞与を含む年間収入や労働時間との関係がどう変わるか
60歳以降の働き方を検討するときは、「働ける年齢」だけでなく、契約更新後の職務、労働時間、賞与を含めた年間収入を確認することが欠かせません。全国平均の16.9%減は、その条件を勤務先に具体的に尋ねるための基準になります。
