初任給は10年で2割超上昇 大卒26.2万円・高卒20.7万円と企業規模の差
2025年の新規学卒者の所定内給与額は、男女計で大学卒26万2,300円、高校卒20万7,300円でした。前年からの上昇率はそれぞれ5.6%、5.0%で、物価上昇率を上回る伸びです。
ただし、勤務先の規模による差は広がっています。大学卒では、常用労働者1,000人以上の企業と10〜99人の企業の間に月3万1,000円の開きがありました。
この記事で分かることは次の4点です。
- 2025年の大卒・高卒の初任給水準
- 男女別に見た2015年からの上昇幅
- 大企業と小企業の差が10年でどう変わったか
- 物価を考慮しても購買力が増えたのか
使用データと比較条件
中心に使うのは、厚生労働省の「令和7年賃金構造基本統計調査」です。
比較条件は次のとおりです。
- 対象時点:2025年6月分の賃金
- 対象者:原則として2025年3月に卒業し、新規学卒者として雇用された一般労働者
- 対象事業所:主要産業の民営事業所
- 企業規模:常用労働者10人以上
- 賃金指標:超過労働給与を除く「所定内給与額」
- 金額の単位:月額、千円
ここでいう所定内給与額には、基本給のほか、職務手当、通勤手当など毎月決まって支払われる手当が含まれます。残業代、休日出勤手当、賞与は含みません。
したがって、求人票に書かれた「基本給」だけを比べた数字でも、手取り額を示した数字でもありません。
2025年は大卒26万2,300円、高卒20万7,300円
最新年の最大の特徴は、大学卒が初めて26万円台に達したことです。
| 学歴 | 2025年 | 前年比 | 前年からの増加額(概算) |
|---|---|---|---|
| 大学卒 | 262.3千円 | +5.6% | 約13.9千円 |
| 高校卒 | 207.3千円 | +5.0% | 約9.9千円 |
大学卒と高校卒の差は月5万5,000円です。単純に12か月分へ換算すると66万円になりますが、実際の年収差を意味するわけではありません。賞与、諸手当、昇給時期がこの統計には反映されていないためです。
男女とも前年を上回った
男女別でも、大学卒・高校卒の全区分で上昇しました。
| 学歴 | 男性 | 女性 | 男女差 | 前年比(男性/女性) |
|---|---|---|---|---|
| 大学卒 | 264.9千円 | 259.7千円 | 5.2千円 | +5.4%/+6.0% |
| 高校卒 | 210.1千円 | 202.9千円 | 7.2千円 | +4.8%/+5.8% |
女性の伸び率が男性を上回ったため、男女差は縮まる方向に動きました。ただし、これは新卒者全体の平均です。男女が就職した産業、職種、地域、企業規模の構成が異なるため、同じ仕事に就いた男女の賃金差を直接示すものではありません。
10年で大卒は約5万円、高卒は約4万円上昇
2015年と2025年を男女別に比べると、初任給はどの区分でも2割以上増えています。
| 区分 | 2015年 | 2025年 | 増加額 | 増加率 |
|---|---|---|---|---|
| 大学卒・男性 | 214.2千円 | 264.9千円 | +50.7千円 | +23.7% |
| 大学卒・女性 | 208.5千円 | 259.7千円 | +51.2千円 | +24.6% |
| 高校卒・男性 | 173.1千円 | 210.1千円 | +37.0千円 | +21.4% |
| 高校卒・女性 | 162.7千円 | 202.9千円 | +40.2千円 | +24.7% |
動きは一定ではありません。2010年代後半までは比較的緩やかでしたが、2023年以降に上昇速度が増しました。
大学卒男性を例にすると、2020年の22万7,200円から2025年の26万4,900円へ、5年間で3万7,700円増えています。高校卒男性も同じ期間に17万9,500円から21万100円へ、3万600円増えました。
つまり、10年間の増加分の多くが直近数年に集中しています。
ここがポイント: 初任給は10年で2割以上伸びましたが、一直線に増えたわけではありません。採用競争と賃上げが強まった直近数年に、上昇が加速しています。
大企業と小企業の差はむしろ拡大
初任給の上昇は企業規模を問いません。ただし、引き上げ幅は同じではなく、大学卒では大企業が先行しています。
大学卒は月3万1,000円差
2025年の大学卒・男女計では、企業規模別に次の差がありました。
- 1,000人以上:27万3,400円
- 10〜99人:24万2,400円
- 規模間の差:3万1,000円
2016年には、大企業が21万9,900円、小企業が20万6,900円で、差は1万3,000円でした。9年間で大企業は5万3,500円、小企業は3万5,500円上昇し、規模間の開きは約2.4倍になっています。
月3万1,000円の差は、12か月なら37万2,000円です。賞与を含まない単純換算ですが、家賃や奨学金返済など毎月の固定支出を負担する新卒者には無視しにくい金額です。
高校卒の差は月1万6,600円
高校卒でも大企業の水準が高くなっています。
- 1,000人以上:21万6,500円
- 10〜99人:19万9,900円
- 規模間の差:1万6,600円
2016年の差は7,700円でした。2025年には2倍を超えています。
一方、2025年の前年比では全学歴・全企業規模で初任給が上昇しています。「中小企業では初任給が上がっていない」という読み方も正しくありません。正確には、中小企業でも上がったが、大企業との金額差は縮まらなかったという状況です。
物価を差し引いても増えたのか
名目額だけを見ると大幅な上昇ですが、生活実感を考えるには物価も確認する必要があります。
総務省統計局の消費者物価指数は、2020年を100とした総合指数で、2015年の98.2から2025年の111.9へ上昇しました。10年間の物価上昇率は約14.0%です。
これに対し、男女別の初任給は同じ期間に約21〜25%増えています。単純計算では、全体的な物価上昇を差し引いた購買力もおおむね6〜9%程度増えたことになります。
ただし、この試算には限界があります。
- 消費者物価指数は全国平均であり、住む地域によって家賃や交通費が違う
- 新卒者の支出構成は、指数の基礎となる平均的な世帯と同じではない
- 税金や社会保険料の変化を反映していない
- 初任給と物価は、いずれも年平均の生活水準を完全には表さない
特に都市部で一人暮らしを始める人は、全国平均以上の家賃を負担することがあります。名目初任給が2割増えても、個人の可処分所得や住居費を差し引いた余裕が同じ割合で増えるとは限りません。
数字から読み取れること
ここまでの事実から、初任給を巡る変化は三つに整理できます。
採用時の賃金に上昇圧力がかかっている
2025年は大学卒、高校卒とも前年比5%以上の上昇でした。若年人口の減少や人手不足、企業の賃上げ姿勢などが同じ時期に重なっています。
ただし、統計は「なぜ上げたか」を企業ごとに調べたものではありません。初任給上昇と人手不足が同時に進んでいても、この表だけで単一の原因に結び付けることはできません。
学歴差より企業規模差の拡大に注意が必要
大卒と高卒の間には月5万5,000円の差があります。一方、同じ大学卒でも大企業と小企業の差は月3万1,000円です。
就職時の給与を考える際は「大卒か高卒か」だけでなく、企業規模、産業、勤務地、含まれる手当をそろえて比べる必要があります。平均初任給だけでは、実際の条件差のかなりの部分が隠れます。
初任給だけを上げると既存社員との関係が変わる
これは統計から直接確認できる事実ではなく、賃金制度上の論点です。新卒の初任給が短期間で大きく上がると、入社数年目の社員との給与差が縮まる可能性があります。
企業側には、新卒採用時の提示額だけでなく、入社後の昇給幅や既存社員の賃金表も含めた調整が必要になります。求職者にとっても、初月の金額だけでなく、2年目以降の昇給や賞与の算定方法を確認する意味が大きくなります。
比較するときに誤読しやすい点
初任給の統計は便利ですが、求人票の比較表としてそのまま使うことはできません。
2019年以前は遡及推計
現在公表されている長期系列では、2019年以前の値は、新規学卒者に該当すると推定される労働者を用いた遡及集計です。2020年以降と完全に同じ観測方法で連続しているわけではありません。
長期的な方向を見る用途には使えますが、2019年と2020年の小さな差を制度的な転換として読むのは避けるべきです。
平均値は採用人数の構成に左右される
企業規模計の数値は、各企業の初任給を単純に足して企業数で割ったものではありません。調査対象となった労働者の構成を反映します。
高い初任給を出す産業や大企業で採用者が増えれば、個々の企業が金額を変えなくても全体平均が動く可能性があります。
「初任給」と「手取り」は違う
統計上の所定内給与額からは、所得税、住民税、健康保険、厚生年金、雇用保険などが控除されます。求人を見る際は次も確認が必要です。
- 基本給と固定手当の内訳
- 固定残業代が含まれるか
- 通勤手当や住宅手当の条件
- 賞与の算定基礎
- 試用期間中の賃金
- 勤務地ごとの地域手当
次に見るべきは「入社後の賃金」と地域差
2025年の初任給は、10年前より名目で2割以上高く、全体的な物価上昇を考慮しても一定の改善が見られます。一方で、大企業と小企業の差は大学卒で月3万1,000円まで広がりました。
今後の確認点は、初任給の上昇が入社後にも続くかどうかです。
- 2年目以降の定期昇給も拡大するか
- 既存の若手社員にも賃上げが波及するか
- 中小企業が大企業との差を縮められるか
- 家賃など地域固有の負担を差し引いても生活余力が増えるか
初任給26万円という数字だけでは、働き始めてからの暮らしやすさは決まりません。求人を比較するときは、企業規模別の相場、手当の内訳、昇給実績、勤務地の生活費まで一緒に見ることが実用的です。
