大学生のアルバイトは「長時間化」より「広がった」 生活費12万円増との関係を読む
大学生のアルバイトは、働く人が増え、週11〜20時間の層が厚くなりました。一方、週21時間以上の割合はほぼ変わっていません。最新調査から見えるのは、一部の学生が極端に長く働く変化というより、アルバイトを生活に組み込む学生が広がった変化です。
同じ2年間に、大学昼間部の年間生活費は約12万円、アルバイト収入は約13万円増えました。ただし、この一致だけで「生活費が上がったから働く時間が増えた」とは断定できません。
- アルバイト・定職が週0時間の学生:23.3%から19.3%へ低下
- 週11〜20時間の学生:33.9%から40.0%へ上昇
- 週21時間以上の学生:11.0%から10.9%でほぼ横ばい
- 年間生活費:67万7,400円から79万7,300円へ増加
- 年間アルバイト収入:37万5,900円から50万7,700円へ増加
使用したデータと比較条件
比較の中心は、JASSOが2026年3月に公表した令和6年度(2024年度)学生生活調査です。 前回の2022年度調査と、大学学部・昼間部の全国推計値を比べます。
主な条件は次の通りです。
- 調査主体:独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)
- 調査時期:2024年11月
- 対象:大学学部・短期大学の学生
- 除外:通信制課程、休学者、外国人留学生
- 調査方法:学校が無作為抽出した学生によるオンライン回答
- 有効回答:1万2,659人
- 回収率:15.3%
- 本文の主な集計範囲:大学学部・昼間部
週間生活時間の表は「アルバイト・定職」を合算した集計です。また、各割合は回答者の単純集計ではなく、有効回答を基礎に全国の対象学生数を推計した値です。
2022年度からオンライン調査へ変更されたため、長期推移を読む際には調査方法の違いが入ります。今回は、同じオンライン方式で実施された2022年度と2024年度の比較を軸にします。
働く学生は増えたが、週21時間以上は増えていない
2年間で最も大きく変わったのは、週0時間の減少と週11〜20時間の増加です。 長時間層が膨らんだわけではありません。
| 週のアルバイト・定職時間 | 2022年度 | 2024年度 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 0時間 | 23.3% | 19.3% | -4.0ポイント |
| 1〜5時間 | 12.5% | 10.4% | -2.1ポイント |
| 6〜10時間 | 18.9% | 19.0% | +0.1ポイント |
| 11〜15時間 | 19.2% | 23.1% | +3.9ポイント |
| 16〜20時間 | 14.7% | 16.9% | +2.2ポイント |
| 21〜25時間 | 5.7% | 5.9% | +0.2ポイント |
| 26〜30時間 | 1.9% | 1.9% | 変化なし |
| 31時間以上 | 3.4% | 3.1% | -0.3ポイント |
週11〜15時間と16〜20時間を合わせると、33.9%から40.0%へ6.1ポイント上昇しました。週5日勤務に単純換算すれば、1日2〜4時間ほどに当たる範囲です。
一方、週21時間以上は11.0%から10.9%へわずかに低下しています。週31時間以上も3.4%から3.1%へ下がりました。
したがって、「大学生のアルバイト時間が一律に長くなった」とまとめるのは正確ではありません。働いていなかった層や短時間だった層の一部が、週11〜20時間帯へ移った可能性を示す分布と読むのが妥当です。
アルバイト経験者は86.4%、経済的に厳しい層も拡大
勤務時間の分布だけでなく、過去1年間にアルバイトを経験した学生の割合も上がりました。
大学学部・昼間部のアルバイト従事者は、2022年度の83.8%から2024年度の86.4%へ2.6ポイント上昇しました。ここでいう従事者は、調査時点で働いている人に限らず、調査前1年間にアルバイト経験がある人です。
経済状況別の内訳にも変化があります。
- 家庭からの支援だけで十分修学できるアルバイト従事者:52.4%から51.3%
- 家庭からの支援だけでは修学がやや困難・非常に困難、または支援がない従事者:31.5%から35.1%
- アルバイト非従事者:16.2%から13.6%
経済的に厳しいと答えたアルバイト従事者は3.6ポイント増えました。ただし、この分類はアルバイト従事者全体を「生活費のために働く学生」とみなすものではありません。調査には、家庭からの支援だけで十分修学できると答えた従事者も含まれます。
ここがポイント: アルバイトの広がりと経済的に厳しい学生の増加は同時に起きていますが、全員が同じ理由で働いているわけではありません。
生活費は12万円増え、アルバイト収入は13万円増えた
2022年度から2024年度にかけて、アルバイト収入の増加額は生活費の増加額とほぼ同じ規模でした。 ここが家計との関係を見るうえで最も重要な数字です。
| 大学学部・昼間部の年間平均 | 2022年度 | 2024年度 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 生活費 | 67万7,400円 | 79万7,300円 | +11万9,900円(+17.7%) |
| 学費 | 114万7,300円 | 122万1,800円 | +7万4,500円(+6.5%) |
| 学生生活費(学費+生活費) | 182万4,700円 | 201万9,100円 | +19万4,400円(+10.7%) |
| アルバイト収入 | 37万5,900円 | 50万7,700円 | +13万1,800円(+35.1%) |
JASSOの「生活費」は、食費、住居・光熱費、保健衛生費、娯楽・し好費、通信費を含むその他の日常費の合計です。「学生生活費」は、この生活費に授業料や学校納付金、修学費、課外活動費、通学費を含む学費を加えた金額です。
アルバイト収入は月平均に直すと、約3万1,300円から約4万2,300円へ増えた計算になります。増加幅は月約1万1,000円です。
同じ期間に年間生活費は約12万円、月換算で約1万円増えました。二つの増加額が近いことは、学生家計におけるアルバイト収入の重要性が増した可能性を示します。
ただし、これは全学生の平均同士を比べた結果です。同じ学生について「生活費がいくら増え、そのために勤務を何時間増やしたか」を追跡したデータではありません。賃金水準や職種、勤務日数も集計表からは分からないため、増収がすべて労働時間の増加によるものとも限りません。
家庭からの支援は減り、収入の4分の1をアルバイトが占める
学生の収入構成は、家庭からの支援が縮小し、アルバイトへの依存度が高まる方向へ動きました。
大学学部・昼間部の年間収入総額は196万7,400円から203万100円へ、6万2,700円増えました。その内訳は大きく入れ替わっています。
- 家庭からの支援:109万6,900円から102万9,700円へ6万7,200円減
- 奨学金:40万7,600円から43万7,500円へ2万9,900円増
- アルバイト収入:37万5,900円から50万7,700円へ13万1,800円増
- 定職・その他:8万7,000円から5万5,200円へ3万1,800円減
収入総額に占めるアルバイト収入の割合は19.1%から25.0%へ上昇しました。反対に、家庭からの支援は55.8%から50.7%へ低下しています。
この変化は、学生の年間収入が増えていても、家庭から余裕を持って受け取れるお金が増えたわけではないことを示します。収入増の中心を担ったのはアルバイトでした。
一方、奨学金の割合は20.7%から21.6%へ0.9ポイント上昇しています。奨学金には給付型と貸与型、JASSO以外の制度も含まれるため、この金額だけでは卒業後の返済負担まで判断できません。
自宅か下宿かで負担は54万円違う
平均的な生活費負担は居住形態で大きく異なりますが、居住形態別の勤務時間までは公表表から結び付けられません。
2024年度の大学学部・昼間部では、学費と生活費を合わせた年間学生生活費が次のようになっています。
- 自宅:180万1,300円
- 下宿・アパートなど:234万2,900円
- 差額:54万1,600円
下宿・アパートなどの学生生活費は、自宅生より月平均で約4万5,100円高い計算です。住居費や光熱費を自分の生活費として負担するため、差が生じるのは自然です。
しかし、週間生活時間の公表表は国立・公立・私立別であり、自宅生と下宿生の勤務時間を直接比較できません。「下宿生ほど長く働いている」と推測だけで結論付けることはできない点に注意が必要です。
設置者別の比較でも同じ問題があります。2024年度のアルバイト・定職が週0時間だった割合は、国立18.8%、公立16.3%、私立19.6%でした。差はありますが、大学の所在地、学生の居住形態、学年構成などをそろえた地域比較ではありません。
数字から言えること、言えないこと
今回のデータは「アルバイトの裾野が広がった」とは言えますが、「物価高が勤務時間を延ばした」とまでは証明できません。
言えること
- 2022年度から2024年度に、アルバイト経験者の割合は上昇した
- 週0時間の割合が減り、週11〜20時間の割合が増えた
- 週21時間以上の割合はほぼ変わらず、極端な長時間化は確認できない
- 年間生活費とアルバイト収入はともに増えた
- 家庭からの支援額と収入に占める割合は低下した
この調査だけでは言えないこと
- 同じ学生が生活費の上昇を理由に勤務時間を増やしたか
- 時給上昇と労働時間増加のどちらが収入増に強く影響したか
- アルバイトが授業出席、学習時間、成績に与えた影響
- 都道府県や都市圏によって勤務時間がどう違うか
- 自宅生と下宿生でアルバイト時間が何時間違うか
2024年度調査の回収率は15.3%です。JASSOは回答結果から全国推計値を算出していますが、回答しなかった学生との違いが完全になくなるわけではありません。また、週間時間は特定の一週間について尋ねた区分回答であり、年間を通じた繁忙期や長期休暇中の勤務をそのまま表すものではありません。
次に見るべきは「収入額」だけでなく学修との両立
今後の焦点は、アルバイト収入が増えたかではなく、生活費を確保しながら学修時間を守れているかです。
2024年度には、高等教育の修学支援新制度が多子世帯や私立理工農系の中間所得層へ拡大されました。2025年度からは、多子世帯の学生について所得制限なく、一定額まで授業料・入学金の減免対象が広がっています。
ただし、2024年11月の学生生活調査は制度拡大直後の時点です。支援制度がアルバイト時間や家庭負担をどの程度変えたかを判断するには、次回以降の同条件データが必要です。
次に確認したいのは、次の三つです。
- 週11〜20時間の層がさらに増えるのか、それとも減少へ転じるのか
- 生活費と家庭からの支援額の差を、給付型奨学金がどこまで埋めるのか
- 居住形態や地域別に、勤務時間と学修時間を結び付けた集計が示されるか
最新調査が示したのは、大学生全体の極端な長時間労働ではありません。アルバイトをしない学生が減り、週11〜20時間働くことが、より一般的な学生生活になったという変化です。次の調査では、その働き方が一時的な調整だったのか、生活費を支える恒常的な形になったのかが重要な確認点になります。
