60代は9割、70代は7割へ 高齢者のネット利用率が示す「80歳の壁」
高齢者のインターネット利用は、60代ではすでに日常になり、70代でも7割を超えました。一方、80歳以上は37.1%にとどまり、年齢による差は「高齢者と現役世代の間」より、高齢者層の内部で大きくなっています。
総務省の2025年通信利用動向調査によると、過去1年間にインターネットを利用した人は、60~64歳で93.5%、65~69歳で88.9%、70~79歳で71.9%、80歳以上で37.1%でした。
- 60代:おおむね9割が利用
- 70代:初めて7割を超え、71.9%
- 80歳以上:上昇したものの37.1%
- 70代と80歳以上の間には34.8ポイントの差
この記事では、最新値に加え、2021年からの推移、利用目的、男女差、国際比較で注意すべき条件を整理します。
使用データと比較条件
中心に使うのは、総務省「2025年通信利用動向調査」の世帯構成員編です。
調査は2025年8月に実施され、結果は2026年5月29日に公表されました。利用率は「過去1年間にインターネットを利用したことがある個人」の割合です。自宅だけでなく、外出先や職場などでの利用も含みます。
比較条件は次のとおりです。
- 対象地域:日本全国
- 対象者:世帯構成員である個人
- 最新調査時点:2025年8月
- 指標:過去1年間のインターネット利用経験
- 年代区分:60~64歳、65~69歳、70~79歳、80歳以上
- 推移比較:同じ通信利用動向調査の2021年値と2025年値
60代については、最新の公開表が60~64歳と65~69歳に分かれているため、単純平均で「60代全体」を作らず、2区分のまま示します。各区分の人口が異なるため、単純平均では正確な60代利用率にならないからです。
最新値では60代と70代まで利用が広がった
2025年時点で、60代は約9割、70代は7割強がインターネットを利用しています。 80歳以上との差はなお大きく、年齢を一括して「高齢者」と扱うと実態を見誤ります。
| 年齢階級 | 2025年の利用率 | 2021年の利用率 | 4年間の変化 |
|---|---|---|---|
| 60~64歳 | 93.5% | 89.1% | +4.4ポイント |
| 65~69歳 | 88.9% | 80.0% | +8.9ポイント |
| 70~79歳 | 71.9% | 59.4% | +12.5ポイント |
| 80歳以上 | 37.1% | 27.6% | +9.5ポイント |
資料:情報通信研究機構「高齢者のインターネット利用率」。同ページが総務省「通信利用動向調査」の各年値を整理しています。
60~64歳は全体平均を上回る
2025年の国民全体の利用率は85.7%です。60~64歳は93.5%で、全体平均を7.8ポイント上回りました。65~69歳も88.9%で、全体平均より3.2ポイント高くなっています。
ここから分かるのは、60代を一律に「ネット利用が少ない層」とみなす見方が、すでに実態に合わないことです。行政手続き、予約、買い物、金融サービスなどを設計するとき、60代については利用の有無だけでなく、操作の分かりやすさや安全性が次の論点になります。
70代は4年間で12.5ポイント上昇
70~79歳は2021年の59.4%から2025年の71.9%へ上昇しました。4年間の伸びは12.5ポイントで、今回比較した区分では最大です。
ただし、この増加をすべて「同じ人が新たに使い始めた結果」とは解釈できません。年を追うごとに、以前から仕事や生活でネットを使ってきた世代が70代へ移るという世代交代も含まれるためです。
80歳以上は上昇しても少数派
80歳以上の利用率は2021年の27.6%から2025年には37.1%へ上がりました。それでも、利用経験のある人は10人中4人に届きません。
2025年の70代との差は34.8ポイントです。60~64歳との差は56.4ポイントに達します。公共サービスをオンライン化する際に残すべき代替手段を考えるうえで、80歳以上の数字は特に重要です。
ここがポイント: 60代では「利用するかどうか」より使いやすさが中心課題になりつつあります。一方、80歳以上では、窓口・電話・書面を含む利用経路そのものの確保がまだ欠かせません。
増えたのは利用経験だけではない
ネットを一度でも利用した人の割合だけでは、生活への浸透度は分かりません。そこで、2024年調査の利用目的も確認します。
総務省資料を収録した「日本の統計2026」では、過去1年間の用途別利用率が年齢階級ごとに示されています。
検索は70代前半で65.5%
検索サービスの利用率は次のとおりです。
- 60~64歳:81.3%
- 65~69歳:72.8%
- 70~74歳:65.5%
- 75~79歳:54.0%
- 80歳以上:38.9%
天気、ニュース、地図、交通情報などを調べる行動は、70代にも広がっています。ただし、70~74歳と75~79歳の間にも11.5ポイントの差があります。「70代」という10歳幅の集計でも、前半と後半では利用状況が異なります。
ネット購入は年齢とともに差が広がる
商品・サービスの購入・取引をした割合は、60~64歳で65.8%、65~69歳で53.4%でした。70~74歳は41.1%、75~79歳は27.6%、80歳以上は20.4%です。
ネット利用率そのものより低く、特に70代後半以降で差が大きくなります。情報を検索することと、住所や決済情報を入力して契約を完了することでは、必要な操作や感じるリスクが違うためです。
SNS利用にも段差がある
2024年のSNS利用率は、60~64歳が80.0%、65~69歳が70.2%、70~74歳が64.3%、75~79歳が56.1%、80歳以上が41.5%でした。
この値は「インターネット利用者のうちの割合」ではなく、各年齢階級の人口に対する用途別利用率です。メッセージ交換、家族や知人との連絡、情報収集など複数の使い方が含まれるため、利用頻度や習熟度まで同じとは限りません。
男女差は70代以降で拡大する
最新調査では、60代前半の男女差はほぼありませんが、70代以降では女性の利用率が低くなっています。
| 年齢階級 | 男性 | 女性 | 男女差 |
|---|---|---|---|
| 60~64歳 | 93.0% | 93.9% | 女性が0.9ポイント高い |
| 65~69歳 | 91.0% | 86.9% | 男性が4.1ポイント高い |
| 70~79歳 | 77.0% | 67.5% | 男性が9.5ポイント高い |
| 80歳以上 | 45.3% | 32.3% | 男性が13.0ポイント高い |
内閣府男女共同参画局は、2014年から2024年の変化について、70~79歳女性の利用率が22.7ポイント、60~69歳女性が19.3ポイント上昇したと整理しています。それでも高い年齢層には差が残っています。
この差には、現役時代に仕事でパソコンやネットを使った経験、所得、単身か同居か、機器を教えてくれる人の有無など、複数の条件が関係し得ます。ただし、年代別利用率だけから特定の原因を断定することはできません。
「ネットが使える」と「デジタル手続きができる」は別
利用率の上昇は、すべてのオンライン手続きを一人で完了できることを意味しません。
通信利用動向調査の利用率は、過去1年間に一度でもインターネットを使えば該当します。ニュースを読む人、家族との連絡だけに使う人、ネット銀行や行政手続きまで行う人が、同じ「利用者」に含まれます。
生活者への影響を考える際は、少なくとも次の段階を分ける必要があります。
- 接続:端末を用意し、通信環境につなげられるか
- 操作:検索、入力、アプリ更新を自力で行えるか
- 判断:偽サイトや不審な連絡を見分けられるか
- 完了:本人確認、決済、予約変更まで進められるか
- 復旧:パスワード忘れや端末故障から戻れるか
内閣府の整理では、2024年にネット利用時のセキュリティなどへ不安を感じる人は、女性69.8%、男性65.9%でした。利用率が上がるほど、安全に使い続けるための支援も重要になります。
地域差と国際差を読むときの限界
高齢者の利用率を地域別・国別に比べるには、年齢区分と調査期間をそろえる必要があります。 条件の違う数字を並べたランキングは、見かけほど明確ではありません。
都道府県別では年齢構成の影響を除けない
通信利用動向調査には都道府県別の集計がありますが、全国値と同じ細かな年齢階級を掛け合わせた値が常に安定して公表されるわけではありません。
都道府県全体の利用率が低くても、地域の通信環境だけが原因とは限りません。80歳以上の人口割合が高い地域では、年齢構成だけで全体平均が下がる可能性があります。地域比較では、同じ年齢層同士を比べる「年齢調整」が必要です。
OECD比較は日本の高齢層が空欄
OECD「Digital Economy Outlook 2024」の年齢別表は、主に16~24歳、25~54歳、55~74歳を比較しています。しかし日本については、55~74歳の値が掲載されていません。
さらに、多くの国が「過去3カ月」の利用を尋ねるのに対し、日本は「過去12カ月」です。調査年も国によって異なります。このため、日本の70代や80歳以上を同じ条件で順位付けすることはできません。
国際差を読むなら、少なくとも以下をそろえる必要があります。
- 年齢区分の上限と下限
- 「利用した」の対象期間
- 調査年
- 個人調査か世帯調査か
- 標本抽出と回答方法
数字から言えること、言えないこと
確実に言えるのは、利用が高い年齢層へ広がり、最大の分断が80歳前後に移っていることです。
データから確認できる事実
- 60~64歳の利用率は93.5%で、国民全体を上回る
- 70~79歳は2021年から12.5ポイント上昇し、2025年に71.9%となった
- 80歳以上も上昇したが、2025年時点で37.1%にとどまる
- 70代以降では男女差が大きくなる
- 検索、SNS、ネット購入では、同じ高齢層でも用途ごとに利用率が異なる
このデータだけでは断定できないこと
- 利用率上昇のうち、初心者の新規利用と世代交代がそれぞれ何割か
- 所得、健康状態、同居家族、居住地域が与えた個別の影響
- 利用者が行政・金融・医療の手続きを自力で完了できるか
- 都道府県間の差が通信環境と人口構成のどちらによるものか
調査値には標本誤差もあります。特に80歳以上の前年差は、長期的な方向を見る材料にはなっても、1年だけの上下をそのまま社会全体の変化とみなすべきではありません。
次に見るべきは「使った人」より「完了できた人」
今後の焦点は、接続経験の有無から、必要な用事を安全に完了できるかへ移ります。
60代ではオンライン利用を前提にしやすくなりました。70代でも多数派です。しかし80歳以上では非利用者がなお6割を超え、窓口や電話を急に廃止すれば利用できない人が残ります。
行政、医療、交通、金融などのサービスを評価するときは、次の数字を併せて確認する必要があります。
- 本人確認や申請を途中で断念した割合
- 家族や職員の支援を必要とした割合
- 年代別・男女別の被害や不安
- 電話、書面、対面窓口の利用状況
- 70代前半・後半、80代前半・後半に分けた利用率
「高齢者もネットを使うようになった」という事実だけで、非デジタル手段をなくせるわけではありません。 次に問うべきなのは、利用率の高さではなく、80歳以上を含む誰もが必要なサービスへ最後まで到達できるかです。
