住宅ローンの「広がり」と「重さ」は別――年代別に読む2025年の負債と年収
住宅に関する借金の平均残高は増えています。しかし、それだけで「住宅ローンを抱える世帯が増えた」とは判断できません。総務省の家計調査では、2025年の二人以上の世帯の住宅・土地のための負債は平均620万円となり、前年の612万円から増加しました。
年代別に見ると、残高が大きいのは世帯主が40歳未満の世帯です。この記事では、借金のない世帯を含む平均と、借金のある世帯だけの平均を分け、住宅関連の負債が年収に対してどの程度あるのかを読み解きます。
- 住宅関連の負債残高が増えても、借りている世帯の割合が増えたとは限らない。
- 40歳未満では、住宅関連の平均残高が年間収入の約2.3倍に当たる。
- 残高と年収の比率は、毎月の返済負担を直接示す数字ではない。
出典は、総務省統計局の家計調査「2025年平均結果の概要」です。以下の数値と計算は、同資料の表Ⅱ-2-1、表Ⅲ-1-1などに基づきます。
使用データ――全国の二人以上の世帯を、同じ条件で比べる
対象は全国の二人以上の世帯で、単身世帯を含む日本の全世帯ではありません。
2026年10月8日時点で確認した最新の年平均結果は2025年分です。概要は2026年5月19日に公表され、年報は同年9月4日に公表されています。年平均の推移を比べるため、本稿では四半期値を混ぜません。公表資料は統計局の調査結果ページと2025年年報で確認できます。
読み方の条件は次のとおりです。
- 年代:世帯主の年齢で区分。夫婦それぞれの年齢による分類ではない。
- 残高:調査時点で残っている負債。年間に新しく借りた金額とは異なる。
- 年間収入:世帯全体の収入。世帯主一人の給与や、税・社会保険料を差し引いた手取りとは異なる。
- 平均:特に断らない限り、負債がない世帯も含む1世帯当たりの値。
また、「住宅・土地のための負債」と「住宅ローン返済世帯」は、統計の分類が異なります。前者は借金の用途による区分、後者は持家の勤労者世帯を返済の有無で分けた区分です。両者を同じ世帯集団として扱わないことが、比較の出発点になります。
残高が増えても、借りる世帯が増えたとは限らない
平均残高の増加には、借りる世帯の割合と、借りている世帯の残高という二つの経路があります。
2025年の二人以上の世帯では、住宅・土地のための負債を持つ世帯の割合は29.8%でした。この数字は、その年の借入の広がりを示します。一方、平均620万円は、借金のない世帯も含めてならした残高です。
平均残高は、概念的には次の関係で決まります。
全世帯の平均残高 = 負債を持つ世帯の割合 × 負債を持つ世帯だけの平均残高
したがって、借りる世帯の割合が横ばいでも、借りている世帯の残高が増えれば全体の平均は上がります。逆に、借りる世帯が増えても、小口の借入が中心なら平均残高の伸びは小さくなります。
ここで参考になるのが、住宅関連に限定しない「負債保有世帯」の推移です。二人以上の世帯全体では、その割合は2020年の38.5%から2025年の37.5%へ低下しました。住宅ローン世帯そのものの増減を示す数字ではありませんが、借金の平均額が増えることと、借金のある世帯が広がることは一致しないと分かります。
「住宅ローンを抱える世帯は増えたか」を厳密に答えるには、住宅関連の負債保有割合を同じ定義で時系列比較する必要があります。さらに実数の増減を知るには、対象となる世帯総数も必要です。割合が上がったことと、全国の世帯数が増えたことも別の問いになります。
年代別の残高――40歳未満では住宅関連の負債が年収の約2.3倍
住宅関連の残高を年収で割ると、若い世帯ほど大きいという差がはっきりします。
次の表は、2025年の二人以上の世帯について、住宅・土地のための負債と年間収入を比較したものです。どちらも負債のない世帯を含む平均で、金額の単位は万円です。
| 世帯主の年齢 | 住宅関連の負債 | 年間収入 | 残高/年収 |
|---|---|---|---|
| 40歳未満 | 1,768 | 767 | 230.5% |
| 40~49歳 | 1,393 | 871 | 159.9% |
| 50~59歳 | 669 | 905 | 73.9% |
| 60~69歳 | 196 | 646 | 30.3% |
| 70歳以上 | 65 | 442 | 14.7% |
出典:2025年平均結果の概要、表Ⅲ-1-1。比率は公表された万円単位の値から筆者計算、小数第1位に丸めたものです。
40歳未満では残高が年収の約2.3倍、40歳代では約1.6倍です。50歳代になると年収を下回ります。平均年収が高い年代と、平均残高が大きい年代は重なっていません。
「若いほど残高が大きい」と「若いほど借りている」は違う
住宅購入からの経過年数が短ければ、元金の返済が十分に進んでいないという説明は可能です。ただし、この表だけで購入時期や返済期間を確認できるわけではありません。
実際、住宅関連以外も含む負債保有割合は、40歳未満より40歳代の方が高くなっています。若い年代の平均残高が大きい理由を、借入世帯の多さだけで説明することはできません。
この比率は「返済に年収の230%を使う」という意味ではない
残高は複数年にわたって返す借金、年収は1年間に得る収入です。二つを割った値は、残高の規模を比較するための指標です。
毎月の支払いを見るには、年間返済額を収入で割る返済負担率や、金利、残りの返済期間が必要になります。同じ残高でも、返済期間が短い契約と長い契約では月々の支払いが異なります。
さらに、この表は「平均残高÷平均年収」です。各世帯の比率を計算して平均した値ではなく、中央値でもありません。230.5%を、その年代の典型的な家庭の数値として使うことはできません。
2020年との比較――若い年代で住宅関連の残高が大きく増えた
2020年から2025年までの変化は、全年代に一様な増加ではありません。
住宅・土地のための負債の平均残高を、同じ年代区分で比較すると次のようになります。
- 40歳未満:1,169万円から1,768万円へ。599万円、約51%増加。
- 40歳代:1,152万円から1,393万円へ。241万円、約21%増加。
- 50歳代:620万円から669万円へ。49万円、約8%増加。
- 60歳代:192万円から196万円へ。ほぼ横ばい。
- 70歳以上:66万円から65万円へ。ほぼ横ばい。
出典:同資料、表Ⅲ-1-1。増減額・増減率は筆者計算です。
増加が目立つのは40歳未満です。ただし、2020年に40歳未満だった世帯を、2025年まで追跡した結果ではありません。それぞれの年にその年齢区分に入っている世帯の比較です。
ここには、購入価格、頭金、借入期間、購入する世帯の構成など、複数の要因が入り得ます。残高だけでは、どの要因が増加をもたらしたかを切り分けられません。「住宅価格が上がったから」と一本の原因で説明するには、購入価格や新規借入額の資料を重ねる必要があります。
一方、残高が増えたという事実は、今後返す元金の規模を考えるうえで重要です。金利が同じでも、残高が大きければ利息計算の対象となる金額は大きくなります。ただし、実際の支払いへの反映は契約条件によって変わります。
借りている世帯だけを見ると、平均の印象が変わる
住宅ローン返済中の家計を見るなら、借金のない世帯を含む平均だけでは不十分です。
2025年の持家の住宅ローン返済世帯では、負債全体の平均残高は2,076万円でした。対象は二人以上の勤労者世帯のうち、持家で住宅ローンを返済している世帯です。
全国の二人以上の世帯の住宅関連平均620万円と比べると、かなり大きく見えます。しかし、対象世帯も負債の範囲も違います。数字の大小をそのまま「一般家庭と返済中の家庭の差」と読んではいけません。
この違いは、統計を自分の家計に引きつけるときに効いてきます。
- 住宅ローンがない世帯も含めた平均は、社会全体に残高がどれほど分布しているかを見る。
- 返済中の世帯の平均は、借りている家計の残高規模を見る。
- 年代別の平均は、年齢によって残高と収入の組み合わせがどう違うかを見る。
どれか一つが正しい平均なのではありません。答えたい問いに合う対象を選ぶ必要があります。
データから言えること――残高の増加だけでは家計悪化を判定できない
借金が増えたという事実と、返済が苦しくなったという判断の間には、確認すべき項目があります。
住宅の取得では、借金と同時に住宅・土地という資産を持ちます。負債残高だけを見ても、資産を含む家計全体の状態は分かりません。一方、住宅を所有していても、その価値が毎月の返済に使える現金として手元にあるわけではありません。
家計の支払い余力を見るには、少なくとも次の違いを区別する必要があります。
残高が増え、収入も増えている場合
残高の伸びより収入の伸びが大きければ、残高の年収比は下がります。借金の額が増えているのに、収入との比較では軽く見えることがあり得ます。ただし、物価上昇で生活費が増えていれば、返済に回せるお金まで増えたとは限りません。
残高が減り、収入も減っている場合
返済が進んでいても、退職などで収入が減れば支払い余力が縮む場合があります。高齢世帯の平均残高が小さいからといって、返済が残るすべての世帯に余裕があるとは判断できません。
残高が同じで、金利条件が変わる場合
残高の年収比が変わらなくても、適用金利が変われば支払い条件は変わり得ます。固定金利か変動金利か、いつ条件が見直されるかによっても違います。今回の年代別表では、その契約の内訳は分かりません。
つまり、残高と所得の比較は入口です。家計の厳しさを判定するには、返済額と生活費を含めた収支へ進む必要があります。
注意点と次の確認――「何世帯」と「いくら返す」を分けて追う
次に見るべきなのは、住宅関連の借入世帯割合と、返済中の世帯の支払い条件です。
今回の数値は名目額で、物価調整をしていません。また、年平均は月別結果の単純平均であり、年末時点の残高ではありません。貯蓄・負債が不詳の世帯は集計から除かれています。
年齢による差にも注意が必要です。若い世帯と高齢世帯では、就業状況、世帯人数、住宅の取得時期が異なります。年代差を、そのまま年齢だけの効果と読むことはできません。
住宅ローンと暮らしの変化を継続して見るなら、確認する順序は次の三つです。
- 広がり:住宅関連の負債を持つ世帯の割合が、同じ定義で増えたか。
- 残高:借りている世帯だけの残高が、収入に対してどう変わったか。
- 支払い:年間返済額、適用金利、残りの期間によって、家計から出ていくお金がどう変わるか。
2025年のデータで明確なのは、若い年代の住宅関連残高が2020年より大きくなったことです。その増加が毎月の生活をどれほど圧迫しているかを確かめるには、残高の次に「返済額」を見る必要があります。
