牛乳の購入量は20年で約3割減 値上げ後も続く「静かな牛乳離れ」
牛乳の家庭購入量は、長期的に減っています。総務省「家計調査」によると、二人以上の世帯が購入した牛乳は2002年の年間103.15リットルから2022年には73.30リットルへ減少しました。20年間で約29%減った計算です。
さらに、2025年まで5年連続で前年を下回りました。価格上昇だけで始まった変化ではありませんが、2022年11月と2023年8月の値上げを挟んでも購入量が戻らず、減少が定着した点は見逃せません。
- 2002年から2022年までの購入量減少率は約29%
- 2020年の一時的な増加後、2021~2025年は5年連続で減少
- 東京都区部の店頭価格は2021年の1リットル212円から2023年に259円へ上昇
- 購入量の減少には価格だけでなく、世帯人数や年齢構成、飲み方の変化も重なる
使用したデータと比較条件
中心に据えるのは、全国の二人以上の世帯が家庭用に買った牛乳の数量と平均価格です。
主に次の資料を参照しました。
- 総務省「家計調査」:二人以上の世帯、1世帯当たり年間購入数量・平均価格
- 総務省「小売物価統計調査」:東京都区部における牛乳の店頭価格
- 農林水産省「飲用牛乳の適正な価格形成について」:生乳生産費、乳価、小売価格、購入本数の関係
- 農林水産省「食料・農業・農村白書」:牛乳乳製品全体の1人当たり消費量
- 総務省の都市別ランキング:都道府県庁所在市と政令指定都市の比較
ここでいう家計調査の「購入量」は、スーパーなどで世帯が買った量です。外食、学校給食、施設での飲用は含まず、実際に飲んだ量とも一致しません。
また、平均価格は購入金額を購入数量で割った値です。特定銘柄の定価ではなく、容量や購入先、特売品、高価格帯商品の選択も反映されます。
20年で103.15リットルから73.30リットルへ
牛乳の購入量は一時的な上下を挟みながらも、長期では明確な減少線を描いています。
家計調査の主な年を抜き出すと、次のようになります。
| 年 | 年間購入量 | 平均価格 | 読みどころ |
|---|---|---|---|
| 2002年 | 103.15リットル | 201.06円/リットル | 長期比較の起点 |
| 2005年 | 97.42リットル | 193.62円/リットル | 100リットルを下回る |
| 2010年 | 85.36リットル | 191.00円/リットル | 2002年比で約17%減 |
| 2015年 | 77.62リットル | 198.84円/リットル | 80リットルを下回る |
| 2019年 | 75.80リットル | 200.20円/リットル | コロナ禍直前 |
| 2020年 | 78.17リットル | 203.34円/リットル | 家庭内需要で一時増加 |
| 2022年 | 73.30リットル | 200円台 | 前年比1.2%減 |
2002年と2022年を比べると、減少幅は29.85リットルです。1リットル紙パックに置き換えれば、1世帯が年間に買う本数が約30本減ったことになります。
ただし、これはそのまま「一人が飲む量も29%減った」という意味ではありません。家計調査の単位は1人ではなく1世帯であり、二人以上世帯の平均人数も長期的に変化しているためです。
2020年の増加は流れを変えなかった
2020年には購入量が前年比で約3.1%増え、78.17リットルとなりました。外出機会が減り、家庭内で食事をする時間が増えた時期です。
しかし、この増加は続きませんでした。2021年以降は再び減少し、2025年まで5年連続で前年を下回っています。家庭で過ごす時間が一時的に増えれば購入量は反応するものの、長期的な減少傾向を反転させるほどではなかったことが分かります。
値段はいつ、どの程度上がったのか
直近の購入減少を考えるうえでは、2022年秋以降の価格上昇が大きな節目です。
農林水産省の資料では、東京都区部における飲用牛乳の小売価格は次のように上昇しています。
- 2021年:212円/リットル
- 2022年11月の値上げ後:235円/リットル
- 2023年8月の値上げ後:259円/リットル
2021年から2023年までの上昇幅は47円、上昇率は約22%です。週に2本買う世帯なら、同じ本数を維持した場合の負担増は単純計算で年間約4,900円になります。
値上げの背景には、生産現場の費用増加がありました。農林水産省が示した2021年から2022年の変化では、搾乳牛の生産費に関わる項目が次のように動いています。
- 飼料費:16%上昇
- 流通飼料費:19%上昇
- 光熱水料・動力費:25%上昇
- 費用合計:8%上昇
乳牛の飼料、搾乳設備を動かす電気、輸送などの費用が先に膨らみ、飲用向けの乳価と小売価格が後から引き上げられました。
ここがポイント: 牛乳の購入量は値上げ前から長期的に減っていました。ただし、2022年11月以降は価格が大きく上がった状態で減少が続き、農林水産省も「消費量の減少が定着」と整理しています。
購入量が減った理由を価格だけで説明できない
価格上昇は直近の買い控えと同時に起きていますが、20年間の減少すべてを説明するものではありません。
2002年から2012年にかけて、家計調査の平均価格は201.06円から188.44円へ下がりました。それでも年間購入量は103.15リットルから81.01リットルへ約21%減っています。
価格が下がっていた時期にも購入量が減ったため、ほかの要因を分けて考える必要があります。
世帯人数の縮小
家計調査は「1世帯当たり」の統計です。世帯の人数が少なくなれば、一人ひとりの飲み方が変わらなくても、世帯全体が買う量は減ります。
特に子どものいる世帯と大人だけの世帯では、牛乳を買う頻度や1回に必要な容量が異なります。少子化や単身世帯の増加は、家庭向け需要の土台そのものを小さくします。
ただし、今回の中心データは二人以上の世帯です。単身世帯の増加が、表中の購入量を直接押し下げたとまでは言えません。二人以上世帯の内部でも人数構成が変化している点が重要です。
飲み方と食べ方の変化
牛乳は、そのまま飲むだけでなく、コーヒーや紅茶に入れる、料理に使う、シリアルと合わせるなど複数の使われ方をします。一方で、ヨーグルト、チーズ、豆乳、植物性飲料など、朝食や間食で選べる商品も増えました。
Jミルクの2020年調査では、牛乳類を飲む人の1日当たり飲用量は「100ミリリットル以下」の層が増え、「200~400ミリリットル程度」の層は減少傾向でした。飲む人が一斉にやめたというより、1回または1日に飲む量が小さくなる変化も起きています。
ただし、この調査は家計調査とは対象者、設問、集計方法が異なります。購入量の減少率と直接結び付けることはできません。
値上げ後の節約行動
価格が上がったとき、家計は必ずしも牛乳を完全に買わなくなるわけではありません。
考えられる対応は複数あります。
- 購入本数を減らす
- 特売日にまとめて買う
- 高価格帯から低価格帯へ替える
- 小容量の商品を選ぶ
- 料理用には使うが、そのまま飲む回数を減らす
- ほかの飲料や乳製品と使い分ける
家計調査の平均価格には、こうした商品選択の変化も混ざります。平均価格が上昇したからといって、全世帯が同じ商品を同じ幅だけ値上げされたわけではありません。
地域差は「都道府県別」ではなく都市別
牛乳の地域差は大きいものの、公式ランキングを都道府県全体の順位と読んではいけません。
総務省が公表する2023~2025年平均のランキングは、都道府県庁所在市と政令指定都市に住む二人以上の世帯が対象です。全国52都市を比較しており、都道府県全域の平均ではありません。
直近の単年では、2025年の購入量トップは神戸市となり、前年首位だった奈良市は3位へ下がりました。複数年平均でも近畿の都市は上位に現れやすく、京都市などでは牛乳購入が地域の家計特性として確認されています。
一方、順位には次の条件が影響します。
- 調査世帯の人数と年齢構成
- 子どものいる世帯の割合
- 店頭価格や特売の頻度
- 宅配を含む購入経路
- 年ごとの標本変動
そのため、都市の順位だけから「住民が牛乳好きだから」と断定することはできません。単年値より3年平均を使うのは、調査世帯の入れ替わりによる振れを小さくするためです。
「牛乳乳製品90.1kg」とは別の統計
牛乳だけの家庭購入量と、牛乳乳製品全体の消費量は混ぜて比較できません。
農林水産省の食料需給表では、2023年度の牛乳乳製品の1人当たり年間消費量は90.1kgで、前年度より3.8kg減少しました。この数字には飲用牛乳だけでなく、バター、チーズ、脱脂粉乳などに仕向けられた生乳が含まれます。
家計調査との主な違いは次のとおりです。
- 家計調査:世帯が家庭用に購入した「牛乳」、単位はリットル
- 食料需給表:国内で供給された牛乳乳製品全体を原料乳換算、単位は1人当たりkg
- 飲用調査:回答者が申告した飲む頻度や量
国際比較でも、多くは「牛乳類」「乳製品」「生乳換算」のいずれかを使います。名称が似ていても範囲が違うため、日本の家計購入量と海外の乳製品供給量をそのまま順位付けするのは適切ではありません。
データから言えること、言えないこと
確認できるのは購入量の長期減少と、近年の価格上昇が重なった事実です。原因の寄与率までは分かりません。
言えること
- 二人以上世帯の年間購入量は、2002年から2022年までに約29%減った
- 2020年には一時的に増えたが、2021~2025年は5年連続で減った
- 2022年11月と2023年8月の価格改定後も購入量の弱さが続いた
- 2000年代には価格が低下しても購入量が減っており、長期減少は値上げだけでは説明できない
- 都市別の購入量には地域差がある
このデータだけでは言えないこと
- 一人当たりの実際の飲用量が、世帯購入量と同じ割合で減った
- 値上げが購入減少の何割を引き起こした
- 植物性飲料への置き換えが主因である
- 上位都市の住民ほど健康意識や牛乳への好みが強い
- 家庭購入量の減少分が外食や加工食品で補われているかどうか
因果関係を確かめるには、世帯人数を調整した1人当たり数量、年齢別の飲用調査、所得階級別の購入量、ほかの飲料との同時購入などを組み合わせる必要があります。
次に見るべきは「何本減ったか」より「誰が減らしたか」
牛乳需要の今後を判断するには、全国平均だけでなく世帯属性別の変化を見る必要があります。
注目したいのは次の3点です。
- 価格が高止まりするなか、2026年の購入量が6年連続減少となるか
- 子育て世帯と高齢世帯で、購入量の変化にどの程度の差があるか
- 牛乳からヨーグルト、チーズ、豆乳などへの移行が、数量と栄養摂取の両面でどう進むか
2002年当時と比べ、二人以上の世帯が買う牛乳は年間約30本少なくなりました。次に問うべきなのは、単純な本数の回復ではありません。どの世代・世帯で利用場面が失われ、値上げ後にどの選択が変わったのかを、同じ条件の統計で追うことです。
