下水道使用料は15年で12%上昇 月20m³の平均額と人口減少時代の負担を読む
全国の家庭用下水道使用料は、月20m³使用した場合の平均で2008年度の2,650円から2022年度の2,967円へ、317円(12.0%)上昇しました。年間に換算すると、同じ使用量なら3,804円の負担増です。
ただし、この平均額だけでは今後の負担を見通せません。2023年度の公営企業データでは、処理区域内人口5万人未満の事業ほど汚水処理原価が高く、使用料で費用を賄う「経費回収率」は85.2%にとどまります。値上げ圧力は全国一様ではなく、人口規模や設備更新の時期によって大きく異なります。
この記事で分かること
- 全国平均の下水道使用料が15年間でいくら上がったか
- 値上げが集中した年度と、その読み方
- 小規模な下水道事業ほど原価が高くなりやすい理由
- 自治体の料金改定を見るときに確認したい数字
使用データと比較条件
結論を正しく読むには、料金と経営状況で対象年度が異なる点を押さえる必要があります。
この記事では、国土交通省が公表した上下水道関係資料のうち、次の2系列を使います。
- 料金の推移:公益社団法人日本下水道協会「下水道統計」を基にした、2008~2022年度の家庭用月20m³下水道使用料
- 経営状況:総務省「令和5年度地方公営企業年鑑」を基にした、2023年度決算時点の汚水処理原価、使用料単価、経費回収率
- 対象地域:全国の公共下水道事業。ただし、資料ごとに除外条件がある
- 比較単位:料金は1世帯が月20m³使用した場合、経営指標は1m³当たり
料金推移の集計は、公共下水道事業のうち特定公共下水道事業を除きます。経営指標は公共下水道、特定環境保全公共下水道、特定公共下水道、流域下水道が対象で、未供用などは除外されています。
つまり、料金のグラフと経営指標のグラフは完全に同じ事業者集合ではありません。両者を組み合わせると負担の方向性は読めますが、料金上昇の原因を直接証明するものではない点に注意が必要です。
全国平均は2,650円から2,967円へ上昇
全国の平均使用料は、15年間を通じて緩やかな上昇基調にあります。
主な年の金額を抜き出すと、次のようになります。
| 年度 | 家庭用月20m³の平均使用料 | 2008年度との差 |
|---|---|---|
| 2008年度 | 2,650円 | ― |
| 2013年度 | 2,754円 | +104円 |
| 2018年度 | 2,880円 | +230円 |
| 2019年度 | 2,928円 | +278円 |
| 2020年度 | 2,942円 | +292円 |
| 2021年度 | 2,952円 | +302円 |
| 2022年度 | 2,967円 | +317円 |
2008年度から2022年度までの上昇率は約12.0%です。単純平均すれば年21円ほどの増加ですが、実際には毎年均等に上がったわけではありません。
改定が多かったのは2014年度と2019年度
値上げを実施した事業者数は年度によって大きく変わります。国土交通省の資料では、特に次の2年度が突出しています。
- 2014年度:値上げ400事業者、値下げ28事業者
- 2019年度:値上げ307事業者、値下げ18事業者
いずれも消費税率の引き上げがあった年度です。国土交通省も、消費税増税時に使用料改定を実施した事業者が多いと説明しています。
ここでの「値上げ」には、経営悪化だけでなく、料金に転嫁される消費税率の変更も含まれます。そのため、2014年度や2019年度の改定件数を、そのまま下水道事業の原価上昇件数とみなすことはできません。
近年も小幅な上昇は続く
2019年度の2,928円から2022年度の2,967円までの増加は39円、率にして約1.3%です。消費税改定時ほどの大きな段差はないものの、全国平均が以前の水準へ戻ったわけでもありません。
家計への影響は、上水道料金と合算して請求される自治体が多い点にも注意が必要です。請求額全体が増えたときは、上水道と下水道のどちらが改定されたのか、検針票や自治体の料金表で分けて確認する必要があります。
自治体差を生むのは「人口」より設備の密度
料金改定の圧力を理解する鍵は、利用者1人当たりでどれだけの設備を維持するかです。
下水道は、処理場だけでなく長い管路、ポンプ場、監視設備を継続して動かす必要があります。利用人口や排水量が減っても、管路をすぐ短くできるわけではありません。そのため、人口が少なく住宅が分散した地域では、1m³の汚水を処理する費用が高くなりやすくなります。
5万人未満では汚水処理原価が181.1円
2023年度の人口規模別データでは、処理区域内人口5万人未満の1m³当たり汚水処理原価は181.1円でした。内訳は次の通りです。
- 維持管理費:53.5円
- 資本費:127.7円
- 合計:181.1円
- 使用料単価:154.3円
- 経費回収率:85.2%
資本費とは、施設整備に伴う減価償却費や支払利息などに関わる費用です。小規模事業では、この部分が原価を押し上げています。
一方、全国平均の経費回収率は96.7%です。規模別では、都・指定都市が98.5%、処理区域内人口30万人以上が99.6%、20万~30万人が100.5%でした。
ここがポイント: 全国平均の料金が12%上がった事実と、小規模事業の経費回収率が85.2%である事実は別の指標です。ただし、利用者から集める使用料だけでは汚水処理費を賄えていない事業ほど、今後の料金改定や公費負担の見直しが課題になりやすいことを示します。
値上げだけでは解決しない三つの構造問題
使用料の適正化は必要でも、それだけで下水道経営が持続可能になるとは限りません。
人口減少で料金収入の母数が縮む
下水道使用料は、一般に使用水量に応じて増える仕組みです。人口や世帯当たり使用水量が減れば、料金を据え置いたままでは収入が減ります。
ただし、人口減少率と料金改定率がそのまま一致するわけではありません。自治体ごとに、事業区域の広さ、企業や観光客の排水量、一般会計からの繰入れ、過去の借入金、施設更新の時期が異なるためです。
老朽施設の更新は先送りできるが、消えない
管路や処理場の更新を先送りすれば、短期的な支出は抑えられます。しかし、故障や漏水、道路陥没などのリスクが高まれば、計画的な更新より高い緊急対応費が生じる可能性があります。
利用者にとって重要なのは、値上げの有無だけではありません。自治体が改定理由として示す投資計画に、次の項目が含まれているかを見る必要があります。
- 何年先までの施設更新を織り込んでいるか
- 管路の点検・改築量をどこまで増やすか
- 災害対策や耐震化にいくら充てるか
- 組織統合や共同発注で費用を減らせるか
公費で補う範囲にも限界がある
雨水処理など公費で負担すべき経費がある一方、日常の汚水処理は使用料で賄うことが基本です。経費回収率が100%を下回る場合、その不足分は一般会計からの繰入れなどで支えられることがあります。
これは使用者の負担が消えたことを意味しません。料金ではなく税を通じて住民全体が負担している場合があるためです。料金を抑える政策には家計を守る効果がありますが、福祉、教育、道路など他の行政サービスに使える財源との調整が必要になります。
自治体の料金改定は「月20m³」だけで比べない
生活者が実際の負担を確認するなら、自分の使用量と料金体系に当てはめることが欠かせません。
月20m³は全国比較に便利な標準条件ですが、すべての世帯の実態を表す数字ではありません。単身世帯と子育て世帯では使用量が異なり、基本水量や従量単価の区切りも自治体ごとに違います。
料金改定の資料では、少なくとも次の5点を確認すると実態が見えやすくなります。
- 基本使用料はいくら上がるのか
- 自宅の使用量帯で従量単価がどう変わるのか
- 表示額が税込みか、税抜きか
- 2か月検針なら、請求額が何か月分か
- 激変緩和や低所得世帯向け支援があるか
改定率が同じでも、基本料金中心の値上げなら使用量の少ない世帯への影響が相対的に大きくなります。反対に、使用量の多い区分の単価を重点的に上げる改定なら、大人数世帯や事業所への影響が強く出ます。
データから言えること、言えないこと
今回の数字が明確に示すのは、全国平均の上昇と、小規模事業の費用回収の難しさです。
データから言えること
- 家庭用月20m³の全国平均は、2008~2022年度に317円、12.0%上昇した
- 料金改定件数は消費税率変更時に大きく増えた
- 2023年度は、処理区域内人口5万人未満の事業で汚水処理原価が高く、経費回収率が全国平均を下回った
- 規模の大きい事業でも経費回収率が必ず100%を超えるわけではない
このデータだけでは言えないこと
- 人口減少だけが料金上昇の原因である
- 料金が高い自治体ほど経営効率が悪い
- 経費回収率が低い自治体は直ちに同じ幅で値上げする
- 全国平均の12%上昇が、すべての世帯の実負担と一致する
寒冷地、起伏の大きい地域、住宅が分散した地域では、ポンプ設備や長い管路が必要になることがあります。料金の高さには、地形や整備時期、処理方式も反映されます。自治体を評価するときは、金額だけでなく同じ規模・条件の事業と比べるべきです。
次に見るべきは自治体の経営戦略
今後の負担を早めに知る手掛かりは、自治体が公表する「経営戦略」と料金改定の審議資料です。
国土交通省は、下水道事業の持続性を高めるため、令和5年度決算時点の経営状況を地域別に可視化しています。自分の自治体を見る際は、使用料の水準だけでなく、次の数字を追うと値上げの背景が分かります。
- 経費回収率が100%へ近づいているか
- 汚水処理原価と使用料単価の差が広がっていないか
- 処理区域内人口と年間有収水量がどう推移しているか
- 管路・処理場の更新費を将来収支に反映しているか
- 一般会計からの繰入れに依存しすぎていないか
全国平均では15年で月317円の上昇でした。しかし、次の15年も同じ速度とは限りません。人口減少が速く、更新投資が重なる自治体では、平均以上の改定が必要になる可能性があります。
次の検針票で見るべきなのは合計額だけではありません。下水道使用料を分けて確認し、自治体の経営戦略にある改定予定年度、経費回収率、更新投資額の三つを照合する。それが、生活インフラ負担の変化を事前につかむ最も具体的な方法です。
